【KAC20253】神田フェアリーテイル

黒井咲夜

とかいのファンタジー

――まま!ベランダにようせいさんいるよ!


少女が無邪気に笑いながら、ベランダを指差す。


――キラキラしてて、きれいだね!


宝物を見つけたように嬉しそうな少女とは裏腹に、母親は怪訝な表情をしている。


――まーちゃん……ベランダには、わよ?


『――じゅ、まーじゅー!』


少女が目を開けると、狐が覗き込んでいた。


(……久しぶりだな。昔のこと、夢に見るの)


ビルの合間から差し込む夕陽が、金色の毛並みを照らしている。


「ん……やば、寝ちゃってたか〜」


『にょす!まじゅー!』


東京、神田の一角。ビルの合間にひっそりと建つ小さな稲荷神社。

その社の主である狐が、真珠まじゅに話しかけていた。


『まじゅ、もやもやしてる?げんきちょっとだねー』


「……だっきーばはさ、『妖精』って見たことある?」


ダッキーバと呼ばれた狐が小首を傾げる。


『よーせーって、なぁーに?』


「え?えーっと……キラキラ〜って感じで、ふわふわ飛んでて……あ、あと……」


真珠の横をサラリーマンが通り過ぎる。喋る狐が見えていないように。


「――の人には、見えない」


真珠には、幼い頃から普通の人には見えないものが見えている。

幽霊。精霊。不可視の存在。ダッキーバも、その中に含まれる類のものだ。

「ベランダに妖精がいる」と伝えた後、真珠は母親に心療内科に連れていかれた。


――この子、変なものが見えるって言い出したんです。普通の子よりボーっとしてるし……その、発達障害なんでしょうか?


それ以来真珠が自身の見えている世界を口にすることはなくなり、見えている世界を絵で表現するようになった。

母親はそれを見て、才能があると喜んだ。


(言葉にしたらショーガイ、絵にしたらテンサイ……同じ「普通じゃない」なのに、何が違うんだろ)


『わかった!よーせー、まじゅ!だねぇ』


真珠が思い悩んでいると、不意に足元から声が聞こえた。


「え?」


ダッキーバが真珠の膝に飛び乗り、にへらと笑う。


『まじゅ、きやきやでー、ふあふあ!』


ダッキーバが無邪気な子どものように自信満々に答えるので、釣られて真珠の表情も綻んだ。


「あはは!だっきーば、マジサイコー!」


『まじゅ、げんきなった!』


逢魔時おうまがどきのビル街に、笑い声が響いた。

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