第5話

「拙者はなんでこんなところに……」


翌日の昼休み、僕らは相も変わらず早藤さんと昼食を共にしていた。違う点があるとすれば、隣にいる俊也だろう。


「一人だけ逃げるなんて、ずるいとは思わないか?」


「そもそもな話、拙者関係ないでござる」


「そう言うな。苦楽を分かち合うのが友達だろ?」


「ぐぬぬ……」


俊也は恨めしそうにこちらを睨む。そんな彼に僕は知らん顔でそっぽを向いた。


「ねえ、ふと思ったんだけどさ」


「はい、なんですか?」


 昨日の今日で今度は何だと思いながら、小さくため息をつく。


「二人の詳しい馴れ初め、聞いて無くない? と思ってさ。あ互いにどこに惚れちゃ

ったのかとか、その辺私聞きたいなぁ」


「あ、それは拙者も気になるでござる」


「お、オタク君も分かる口か。いいじゃん」


「フヒヒ……」


陽キャと陰キャの合わさったキモい空間だ。陽のオーラでは覆い隠しきれないキモさがある。こいつの笑い方はどうにかならんものなんだろうか。


「ま、まあ、それはあれですよ。……ね、卓也くん」


分からないなら、最初からこっちに振るんじゃない。こっちだって何もないんだ。困

るだけだというのが分らんのか。


そういえば、こいつ今でこそ完ぺきだけど、昔は何もできなくてよく頼ってきたな。……こんなところで昔を感じたくなかったぜ。


「あー、突然空から魔法少女でも降ってこねえかな」


「いや、現実逃避しないでくださいよ」


「ああ、失礼」


こほんと咳ばらいをすると、ぼんやりとした脳みそを起動し始める。

さて、嘘を話すときのコツは、真実を織り交ぜながら話すのがセオリーとはよく言うが、どこまで話したものか。


「……そうだな。そもそもな話なんだが、俺たち元々幼馴染だったんだよ」


「え、ちょっと待って。それって、夏美がいつも話してたかっこ……むぐ……」


早藤さんは何か話そうとして、直後、夏美が素早く口をふさぐ。


「……お前ら、何やってんの?」


「むぐ、むぐぐぐ」


「いえ、何でもないです。続けてください」


「いや、気になるな」


「……続けてください」


「あ、はい」


目が怖かったので、俺は夏美をスルーして話を続けることにする。俊也に至っては、学校のアイドルが普段は見ない唐突なアグレッシブな行動に目を丸くしているが、今ばかりは許してほしい。

こういう時の夏美に深堀をすると、後々機嫌が悪くなるのだ。


「えーと、どこまで話したっけ」


「元々幼馴染だったところでござる」


「ああ、そうそう。で、家も近いし、最近いろいろあって一緒にいる機会が多くて

な。それで次第にお互い意識するようになったんだ」


 家近いというか、隣だけどな。というのは言わないお約束である。


「…………」


「どうした、俊也」


「幼馴染が……負けヒロインじゃない?」


「いや、ラノベ脳ここに極まれり。つか、幼馴染は負けないが⁉」


「卓也氏は幼馴染押しですが、普通幼馴染は負けますが⁇」


「はあぁ~? おい夏美。今こいつ、聞き捨てならないこと言ったんだが?」


「そうです、そうです。幼馴染はいいものですよ。夜なんもしなくてもご飯出てきま

すし、シャワー浴びた後服忘れたら服くれますし」


「おい、たまに服がなくなると思ってたら犯人お前かい」


「いいじゃないですか、服の一着や二着くらい」


「すでに二十着以上消えてるんだが⁉」


「ちょっと待ってよ」


言い争いが激化しはじめた時に、早藤さんが待ったをかける。


「二人とも、既にお泊り経験済みなの⁉」


「「あ……」」


思わず押し黙る。背中に変な汗がぶわっと湧き出る。

僕らにとってはいつものことだが、ここではそうではないのだ。猛省である。


「お泊りといいますか……その……」


早藤さんはニヤリと笑うと、夏美を肘で小突く。


「夏美にしてはやるじゃん。で、どこまでいったの? もうヤッた?」


「え、卓也氏、もう卒業したのですか‼ 仲間だと思ってたのに……」


「お前はちょっと黙ってろ」


「やっ……」


夏美は言いよどむと、見る見るうちに顔を赤らめていく。


「……してないです」


「えー、お泊りまでしたのに⁉ もしかして、卓也くんって超ド級のヘタレ?」


「誰がヘタレじゃ」


「だって、こんなかわいい子と一つ屋根の下で手を出さないなんて、それもう付いて

ないかへタレてるかの二択じゃない⁉」


確かに本当に付き合っているのなら、きっとそうなのだろう。だが、現実は残酷である。僕らはそもそも付き合っていない。ワンちゃんのワの字もないのだ。


「付き合うスピードは人それぞれだろ?」


「それはそうだけどさぁ」


どうにも納得していない様子だったが、無理やりにでも話を切り上げる。僕らにとっては分の悪い話だ。


「この話はもう終わりだ。」


そういって、僕は弁当をつつき始める。

ふと見た夏美の頬は、いまだ赤い気がした。



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