Depth27 透明化
太陽は事前に連絡を受けていた。八代たちからの救援要請である。そこには、今回のC-SOTの作戦及び彼らが最初にダイブする予定地点が記されていた。「まったく、仲間になったつもりはないんだが……」そう言いつつも、これはジョーに迫る機会であることも確かだった。
「座標を送るよ。もし可能なら、君にも参戦してほしい。もちろん、これは強制じゃない。だけどジョーも来ている可能性が高い事件だ。もしその気になったら連絡を」
そうして彼は今、心海へと来ていた。人命救助などはするつもりもなかったし、ジョーがいる場所に当たるまでひたすらダイブし続ける予定だ。今回はどうやらハズレらしい。薄気味悪い工場跡地のような場所に、小洒落た格好をした男が後ろに手を組んで立っている。
「あなたは……ヒダカさんですね。先日はお世話になりました」
こいつは確か”近藤弘樹”とか言ったか。オトヒメを追った際にいたおっさんだ。だが、こう見えて28歳らしい。髭なども相まってか、実年齢よりも老けて見える。
「お前に関わっている暇はない。俺はジョー以外には興味ないんでな。大人しくジョーの場所を吐くか、そうでないなら俺は帰らせてもらう」
そう言ってジャンプして帰ることにしたのだが、それを見越したように近藤は話を続けた。
「彼の居場所、教えて差し上げてもいいですよ?」
太陽は黙って睨みつける。十中八九でまかせだろう。そんなことをすればただでは済まないはずだ。
「ただし、私を倒すことができたら、ですが」
それが本当なら、倒す価値はある。だが、信用できるとは到底思えない。
「だったらその方が早いかもな」
太陽はわざと煽ってはみたが、大して期待もしていない。これで動揺するような奴なら本当に倒してもいいのだが。
「舐めたことぬかしやがって!ぶち殺すぞこの青二才が!」
近藤の雰囲気は一変し、そう語気を荒らげて怒鳴りつけた。同時に後ろに組んでいた手を太陽の方へ向ける。太陽は咄嗟に身構えたが、その手には何も握られていなかった。すぐにくっくっと笑い声が聞こえる。彼は口に手を当てて上品笑っていた。
「どうです上手いもんでしょう?実は俳優をしていましてね」
「悪ふざけに付き合っている暇はない。じゃあな」
太陽がそう告げた瞬間だった。何もなかったはずの近藤の手から無数の銃弾が放たれる。銃声に反応して横に走ったが、初撃は頬や腕をかすめたらしく、血が滴っていた。
「私もあなたと似たような能力を持っているんですよ。ですが、こうしてしまうと狙いが定めづらいですね。やはり」
近藤はそう言って自分のバディを見せた。それはサブマシンガンを覆っていたらしく、ひらひらとヒラメのような姿をしている。透明化、というわけらしい。
「あなたは煙に包まれてから姿を消すそうですが、少々時間がかかりますよね。それにあなた自身と身に着けたものしか透明化できない……私の方が優れていると思うのです。こんな風に」
そうして彼の身体をヒラメが覆うと、綺麗に姿を消した。それを見て太陽はすぐさま走る。「負けを認めて逃げるんですね?それもいいでしょう」そう聞こえるが無視だ。中距離戦闘では分が悪い。そう考えてドアを勢いよく開けると別の部屋へと逃げ込んだ。そこは少し広めの倉庫のようになっている。単なる透明化であれば、このドアを開けた瞬間に簡単に居場所は特定できるはずだ。
「ロイ、来い」
太陽はここで
ロイを置いて太陽は倉庫の奥へと逃げ込んだ。その途中で咄嗟に目に入ったオイルタンクの中身を足元にばらまく。これで奴がここまで入ってくれば位置を特定できる。
「おや?能力が間に合わなかったようですね。やはり、汎用性に欠ける」
ドアの向こうから声が響いた。どうやら警戒して中にはまだ入っていないらしい。しかし、姿は見られていたようだった。透明化していないことはバレているらしい。
「お前を倒すのに能力は必要ない。心息がもったいないからな」
「このクソガキが!舐めた口きいてんじゃねぇぞ!」
やはりこちらの方が素なのではないか。そう思わせる迫力だった。そして少しの沈黙。オイルの撒かれた地点までは来ていないが、足音を忍ばせて入ってきている可能性はあった。
「俺に飛び道具がないと思い込んでるだろ」
そう言って太陽は何かをドアの前に向けて投げた。それはただのガラス瓶で、地面に当たってガラス片が散らばる。「くふふ」その横辺りから笑い声が響き、マシンガンの銃口から火を噴いた。太陽は遮蔽物に身を隠して防いだが、もうすでに侵入は許していたらしい。
「足掻くのは辞めたらどうですか?まさかまさかガラス瓶とは……恐ろしいですね!ふははは」
彼は心底面白いというように笑った。だがその刹那、「ぐはっ」と漏れた声と共に、彼は巨大な何かによって突如として押しつぶされる。それは太陽のバディ、ロイだった。ずっと部屋の上部に待機させておいた透明だったクジラは、めりめりとその見えない体を押しつぶしていった。
「俺は噓つきなんでな」
床に押し付けられて息が苦しくなっている近藤のもとに、太陽は歩いてきた。彼の透明化は解けている。そして、見下しながら冷たい声で告げた。
「さて、ジョーの居場所を吐け。死にたくなかったらな」
「この腐れ外道がっ……くはっ」
憎しみと怒りに満ちた目で近藤は睨みつけるが、すぐに上からの圧力で骨がきしんだ。口からは血が流れ出ている。
「死にたいらしいな?」
太陽はナイフを取り出すと、しゃがんでそれを首に突きつける。
「くふふ、いいで、しょう。彼の居場所……それは……」
近藤は息も絶え絶えといった様子で言葉を紡いだ。
「知らされてねーんだよクソガキ!」
太陽ははぁと大きくため息を漏らす。
「じゃあ奴の能力と計画について知っていることを話せ」
「それは、約束していないんでね」
近藤はニヤリと笑った。どれが本当の彼なのか、よくわからない。太陽はナイフを突き刺そうとした。だが、手が震えていた。殺すことを躊躇う理由は思いつかない。「どうしたんです?殺さないんですか?」それを見て近藤はニヤニヤと口髭を曲げて笑う。なぜ俺は躊躇う?生かしても邪魔なだけだ。殺せばいい。彼の理性はそう告げていた。しかし、その手は意志に反して動かない。
「もういい、ロイ」
彼はそう言ってロイをどけると、近藤の腹を思いっきり蹴飛ばした。そして、地上へと彼を連れて戻った。そこは彼の仮住まいの1つである。意識を失っている近藤を部屋で拘束し、串呂へと電話をかけた。
「奴らの1人を拘束した。後は警察に任せる」
「上出来だな坊主!すぐに向かわせる」
彼は大声が響く電話をそそくさと切り、大きくため息を吐いた。「仕方ない、別の地点へ潜るか……」そうして彼は再び心海へと潜るのだった。
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