第27話
意識が深く沈んでいく。
"記憶視"――死神の一部が持ってる特殊な力。
魂に残る記憶を辿ることで、悪霊が何を思い、何を抱えてここまで変質したのかを知ることができる。
ただし。
強すぎる負の感情に飲まれる可能性もある。
だから、本当はあんまり使いたくねぇんだけど今回はそうも言ってらんねぇ。
――映像が流れ込んでくる。
「ああ、なんでだ……どうして……!!」
耳をつんざくような叫び声。
視界の先にいたのは、ひとりの男。
顔はぼやけて見えねぇが、絶望に染まった感情だけが伝わってくる。
「俺は……俺は間違ってなかった……!! なのに!!!」
周囲に、何かが転がっている。
人間? いや、死体か?
わからねぇ。
ただ――。
「奪われた……全部……!!」
男の心が、黒く塗りつぶされていく。
その瞬間、記憶がバチッと弾けて、オレの意識が現実に引き戻された。
――はっ!!
オレは息を切らしながら、悪霊の後ろに立っていた。
「ヴェスペル!! 大丈夫か?」
ミラージュが慌てて声をかける。
「……ああ、大丈夫……」
オレは額に手を当てながら、さっき見た記憶を整理する。
「……こいつ、なんか"全部奪われた"とか言ってたな」
「奪われた?」
「たぶん、生前に自分の大事なものを何もかも失ったんだ。で、それを恨んで悪霊になった」
ヴェイルとダルク先輩が無言で悪霊を見つめる。
未練が強すぎるせいで、周りの魂を引き寄せてどんどん膨れ上がった――。
「……ってことは?」
ミラージュがオレを見ながら、ぽつりと呟く。「こいつの"未練"を完全に断ち切れば、倒せるってこと?」
「……ああ」
オレはゆっくりと前に出る。
悪霊はゴゴゴッと唸りながら、黒い靄を広げる。
――でも、お前はここで終わりだ。
「……おやすみ」
オレはそっと手を伸ばし、魂を"回収"する。
抵抗しようとする悪霊を、ヴェイルとダルクが封じる。
――そして。
魂の黒い靄がゆっくりと消えていった。
長かった未練も、これで終わる。
オレたちは静かに見届けながら、ようやく息をついた。
「……終わった?」
「ああ、終わったな」
昼間の戦いは、ようやく幕を閉じた。
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