第26話

昼間に仕事なんて珍しいな――なんて思う暇もなく、オレは急いで空を駆けていた。


ダルク先輩とヴェイルから「悪霊いっぱい! 来い!!」という緊急の司令が入ったのが、ほんの数分前。

なんだそれ、ざっくりしすぎだろって思ったけど、二人が同時に呼ぶくらいだから、相当ヤバい案件なんだろう。

「うわー、マジかよ……どんだけヤバいんだ?」

とか言いながら、指定された場所に降り立つ。

そこは山に近い廃墟。

――で、目の前には。

「……おいおい、マジで悪霊だらけじゃねぇか」

黒い靄をまとった魂が、そこら中をフラフラと彷徨っている。

まるで何かに引き寄せられたみたいに、ここに集まってきている。

そして、その中心には――ひときわデカい悪霊。

禍々しい形に変質した魂の塊。

こいつだけ異様な存在感を放っていた。

ヴェイルが鎌を手にしながら、「やっと来たか」とオレを見た。

「ヴェスペル、遅ぇよ」

「いや、急すぎんだろ!?」

「そんなこと言ってる場合かよ。見ての通りだ」

オレはチラッとヴェイルの様子を見て、思わず眉をひそめる。

――ちょっと怪我してんじゃねぇか。

ローブの袖口が裂けてて、そこから血が滲んでいる。

そして、反対側にいたダルク先輩も、珍しく疲れた顔をしていた。

ローブの裾が焦げたみてぇに焼けている。

「……やられたのか?」

「ちょっとな。まさかこんなデカいのがいるとは思ってなくてよ……」

「最初は一体だけだったんだけどな。こいつが呼び寄せたのか、次々に集まってきた」

ヴェイルが淡々と言う。

オレは改めて"デカい悪霊"に目を向ける。

通常の悪霊なら、こんな短時間でここまで巨大化しねぇ。

こいつ……なにか"特別な理由"があるな?

――その時。

「おーい!! 何事ぉ!??」

上空からミラージュの声が響いた。

オレが到着するのを見て、後を追ってきたらしい。

ミラージュは、廃墟の中の状況を一瞬見渡して「……え、なんかヤバくね!?」

「ヤバいから呼んだんだよ!!」

「うわー、まじかー、こんな昼間からやってらんねー!!」

「いや、それオレも思ってる!!」

オレとミラージュが意味のねぇ意見の一致を見せたところで、悪霊がゴゴゴッと揺れた。

そろそろ動き出す気配だ。

「……ヴェスペル、こいつの記憶に入れるか?」

ダルク先輩が静かに言った。

オレは悪霊を睨みながら、軽く息を吐く。

「……多分」

この悪霊がどうしてこんな異様な存在になったのか、記憶を読めばわかるかもしれねぇ。

そして――このまま増え続けるのを防ぐには、こいつをなんとかするしかねぇ。

「行くわ」

「......すまん」

オレは悪霊の後ろに回り込み、"記憶視"の力を発動した。

視界が一気に歪む。


――さて、お前は何者だ?

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