第19話

「よし、じゃあ今から人間に化けてコート買いに行くか!」

「レッツゴー!」

ミラージュとオレは、テンション上がりまくりで屋上から飛び立とうとした。

その時――。

「……お前ら、何してるんだ?」

不意に、背後から冷静な声がした。

振り向くと腕を組んで、じっとオレたちを見つめるダルク先輩の姿があった。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「やっべぇぇぇ!!!!」

ミラージュとオレは、反射的に飛び上がる。

マズい。バレた。絶対怒られる。

死神の仕事中に…いや人間でも「寒いからコート買いに行く」とか、どう考えてもサボりだろ。

オレとミラージュは、お互いに顔を見合わせながら、どっちが言い訳するか目で押し付け合う。

そして――次にダルク先輩の口から出た言葉は。

「……お前ら天才か?」

「え?」

怒られると思ってたのに、まさかの天才認定。

オレとミラージュは、キョトンとして固まる。

「いや、お前ら考えてみろよ。確かにローブの上にコート着れば寒さ対策できるし、威厳も損なわれねぇ……」

「ですよね!?」

「やっぱそう思いますよね!?」

「……ってなるかバカ」

次の瞬間オレとミラージュの頭にダルク先輩の拳骨が落ちた。

「痛ぇぇぇぇ!!!」

「なんで!? 天才じゃなかったんすか!!?」

「だからってお前ら仕事サボって買い物行くんじゃねぇ!!」

「いやでも、寒いのは事実で――」

「知るか!! 我慢しろ!!」

「ブラック!! ブラック企業!!」

「うるせぇ!! てか、死神が服増やしてどうすんだ!!」

「寒いもんは寒いの!」

ダルク先輩は、オレたちを睨みながらため息をつく。

「……ったく。まぁ、考え方は悪くねぇけどな」

「でしょ!!?」

「でもダメだからな?」

「えぇ~~~」

「いいから仕事しろ」

「......してたし」

結局、コート作戦は却下された。

死神の冬は、今年も寒い。

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