第16話

ヴェイルの言葉に、オレは思わずため息をついた。

魂に影響を与える"何か"。

それが何なのかはわからねぇけどオレたち死神にとって、あまり良いニュースじゃねぇのは確かだ。

「なぁ、ヴェイル」

「ん?」

「"何か"が起きてるって言うけどさ……そもそも、悪霊になるのって二つしか知らないんだけど」

オレは腕を組みながら考える。

今までオレが見てきた限りだと、悪霊になる理由ってのは大きく分けて二つだ。


① 強烈な未練がある場合

例えば、殺された復讐を果たしたいとか、大事な人を残して死んじまったとか、そういう強い執着があると魂は濁って悪霊になる。


② 急激な死を迎えた場合

事故とか災害とかで、あまりに突然死ぬと、魂が自分の死を理解できないまま悪霊化することがある。


で今の状況を③だとすると


③ 外的な影響を受けた場合

何かしらの"異常"が発生。

通常は悪霊にならないはずの魂まで影響を受けることがある。

ってことになるのか?


「……今回の増え方って、オレの知ってる二つに当てはまらない気がするんだよな」

未練を抱えた魂が一定数いるのはいつものことだし、突然死が増えたわけでもない。

「ヴェイル、その"何か"ってのが、もし誰かが仕組んだものとかのパターンだったら――ヤバくね?」

「……ヤバいね」

ヴェイルはローブの裾を翻しながら、少し考え込むように視線を遠くへ向けた。

「ただの偶然とかじゃなく、何か"悪霊を増やそうとしてる存在"がいるなら……」

「いるなら?」

「そいつは、死神の仕事を邪魔する敵ってことになる。」

――敵。

オレたち死神は、魂を回収し、然るべき場所へ送るのが仕事だ。

その流れを意図的に乱す存在がいるとしたら――それは"オレたちと敵対する何か"ってことになる。

「……オイオイ、マジでめんどくせぇ話になってきたな」

思わず頭を抱えるオレを見て、ヴェイルが苦笑いする。

「まぁ、今はまだ確定じゃないけどね。でも、何かがおかしいのは確かだよ」

「……どうする?」

「ダルク先輩に報告しといた方がいいかもな」

「……だな」

オレたちは軽く頷き合うと、ローブをなびかせて夜の街へと飛び立った。

――オレたちの仕事は、"死んだ魂を迷わせないこと"。

でも、もし意図的に魂を迷わせようとする何かがいるとしたら――オレたちの仕事も、戦いになっちまうかもしれねぇ。

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