第13話

「……辛いことしちまったな」

オレはぼんやりと空を見上げながら、ローブの裾をひらつかせた。

結局、オレはあの女を助けたわけじゃねぇ。

ただ、悪霊になるのを避けるために"戻した"だけだ。

……でも、それで良かったんだろうと思う。

生きたまま悪霊なんて戻れないだけじゃない。

今悪霊化して地獄行きで普通より苦しむのとじゃマシのはず。

魂ってのは、一度悪霊になっちまうと、もう普通には成仏できねぇ。

地獄に落ちて、そこで何年、何百年、何千年も彷徨うことになる。

それに比べたら、まだマシな選択だったはずだ。

「……どうせ、もうすぐ死にそうだったしな」

オレはポツリと呟く。

アイツが戻った先に待ってるのは、相変わらずの地獄みてぇな日々だろう。

すぐに環境が変わるとも思えねぇし、変えられる力があるとも思えねぇ。

たぶん――遠くないうちに、本当に死ぬ。

でも、その時はちゃんと回収してやる。

悪霊になんかさせねぇ。

それが、死神であるオレの仕事だ。

「……ま、次の仕事行くか」

オレは軽くローブを払うと、夜の闇へと溶け込んだ。

結局のところ、死神はどこまでいっても"死"にしか関われねぇ。

"生きる"ってことには、手を出せねぇ。

でも、それでいい。

"迷わせない"のが、オレの役目だからな。

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