第12話
「……救済ってんなら天使の仕事か?」
一瞬、そんな考えがよぎる。
でも――ねぇな、それは。
アイツらは"死んだ後の綺麗な"魂しか見ねぇ。
天使の管轄外だ。
そもそも、こいつはまだ死んでねぇ。
魂が抜けかけてるだけで、肉体はまだ向こうにある。
つまり――オレの仕事でもねぇ。
「……なんで呼ばれたのオレなんだよ」
オレはぼんやりと宙を見上げる。
正直、死神の立場からできることなんて限られてる。
オレは"死者を回収する"ことしか許されてねぇ。
生きてる人間を助けることなんて、誰からも求められてない。
……でも。
もしも、こいつがこのまま死んでしまったら。
その時、オレは間違いなく"悪霊化した魂"を回収することになる。
未練を抱え、苦しみの中で悪霊になって戻れなくなった魂を、力尽くで鎮めることになる。
それがどれだけ面倒で、どれだけ無駄に悲惨な仕事になるか――オレはよく知ってる。
「……だったら、今のうちにやることやっとくか」
オレは女の生き霊の額に手を当てた。
こいつの魂は、今にも壊れそうなほど不安定で、ぎりぎりのところで保たれてる。
なら――無理やりにでも戻すしかねぇよな。
「オレの仕事じゃねぇけど――勝手にやらせてもらうわ」
力を込める。
死神の力は、魂を導く力。
その方向をちょっとだけ変えて、"本来あるべき場所"に戻してやる。
……オレが天使だったら、こんなことはしねぇんだろうな。
でも、オレは死神だ。
"魂を迷わせない"のが、オレの仕事だ。
「――帰れ」
そう囁くと、女の魂はふっと光に包まれ――次の瞬間、消えた。
向こうの体に戻ったんだ。
「……はぁ、マジで疲れる」
オレは大きく息を吐きながら、夜空を見上げる。
生き霊の対処なんて、マジでオレの仕事じゃねぇ。
でも、これであの女はまだ生きていられる。
あとは――向こうで自力でなんとかするしかねぇな。
「……ま、これでオレの仕事は終わりってことで」
オレはローブを翻し、夜の闇へと溶け込んだ。
死神は、ただ魂を導くだけ。
生かすも、殺すも、オレの仕事じゃねぇ。
ただ――今回ばかりは、少しだけ違うことをしてみた。
……後悔するかもな。
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