第5話

「ほんと、あんた能力使うの上手いね」

仕事を終えて帰る途中、ヴェイルがそんなことを言ってきた。

「何が?」

「さっき、魂の動き止めたやつ。あのタイミングで、あんなにスムーズにやるの、なかなか難しいよ」

「そうか?」

オレがそう言うと、ヴェイルはふっと笑った。

「自覚ないんだねぇ……ヴェスペル、かなり優秀な方だよ?」

「マジで?」

「わたしなんか最初の頃は悪霊化するの止められなくてさ。何回も先輩に怒られたよ」

「え、ヴェイルでもそんな時あったの?」

「もちろん」

ヴェイルが軽く肩をすくめたその時――。

「よォ~~~っス、ヴェスペル! ヴェイル!」

後ろから声が飛んできた。

振り向くと、黒いローブをひるがえしながら小柄な死神がこっちに飛んできた。

名前はミラージュ。

ぱっと見、男の子なんだけど、顔つきや仕草に女性っぽさがある。

まぁ女性だけど。

それと、やたらと身長を気にしてる。

その話をすると100%ブチギレるから、絶対に触れちゃいけないやつ。

「ミラージュ。どうした?」

ヴェイルが聞くと

「いや~~、たまたま近くにいたんだけど」

「見てたのか?」

「いやぁ見てないよ?話は聞こえたけど。で、ヴェイルの言う通り、マジで能力の使い方上手いよな、アンタ」

「やっぱりそうだよね?」

ヴェイルとミラージュがやたらと頷き合ってる。

「いや、だから普通だろ」

「普通じゃない!」

ミラージュがバッと指をさしてくる。

「僕なんか最初の頃、魂回収しようとしたら力の加減ミスって、逆に暴れさせたことあるんだぜ?」

「うわぁ……」

「ヴェスペルは最初からスッとやれる感じだったろ? それがすげぇんだよ!」

「いやいや、オレも最初はミスったことあるぞ?」

「どんなミス?」

「魂回収しようとしたら、間違えて横にいた天使の羽つかんじまった」

「ははははは!! 何それウケる!!」

ミラージュが腹を抱えて笑い出す。

「いや、あの時の天使マジでキレててさ、『なんて無礼な死神なんだ!』とか言われたんだよ」

「そりゃ怒るわ! でもそれは能力のミスじゃなくて単なるドジじゃね?」

「うるせぇよ」

そんな感じでしばらく笑ってたんだけどミラージュがふと真面目な顔になった。

「でもさ、マジでヴェスペルの能力の使い方は見習いたいわ」

「え、そんなに?」

「うん。僕もヴェイルもそこそこ長くやってるけど、アンタみたいに自然にできるやつはなかなかいないよ」

「……へぇ」

そう言われると、なんかちょっと照れるな。

つーか、ミラージュって確かオレよりずっと先輩なんだよな?

そんなヤツに「見習いたい」とか言われるの、なんか変な感じだわ。

「ま、褒められて悪い気はしねぇけど」

ミラージュはニッと笑って、オレの肩をバンバン叩いてきた。

「でも調子に乗るなよ? 今度仕事一緒になったら、どっちが早く回収できるか勝負な!」

「はぁ? いや、別に競うもんじゃねぇだろ」

「細かいことはいいんだよ!」

……ったく、この人、先輩なのにマジでガキっぽいんだよな。

まぁでも、こういうノリ嫌いじゃねぇ。

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