第4話

今日はオレ一人じゃなく、別の先輩と一緒に仕事することになった。

名前はヴェイル。

先輩だけど先輩って呼ばれるのをすごく嫌がる。

見た目も声もどっちとも取れる感じで、何年も一緒に仕事してる死神たちでさえ

「アイツどっちなん?」

って言ってるくらい、性別不明なヤツだ。

まぁ、オレ的にはどっちでもいいんだけどな。

「ヴェスペル、今日は君と組むんだって」

「うい、よろしくな」

「よろしく。今日は回収する数が多いみたいだから、サクサク行こう」

そう言いながら、ヴェイルはオレよりひと回り短い黒いローブをふわりとなびかせる。

天使ほどじゃねぇけど、たまに無駄に優雅な動きすんだよな、コイツ。

「で、どこ行くんだ?」

「えーとね、まずは……川沿いの事故現場」

「またかよ……マジで人間って油断するとすぐ死ぬよな」

「死ぬからこそ、生きるんだよ」

「いや、名言っぽいけど当たり前すぎん?」

ヴェイルが柔らかい笑みを浮かべ、すっと夜空に浮かぶ。

オレもそれに続いて、目的地へ向かう。


到着すると、すでに現場は騒然としていた。

橋が派手に壊れてて、川にはぐしゃぐしゃになった車が沈みかけてる。

周りには救急隊員?や野次馬が集まって、何やらバタバタしていた。

「これは……危ないね」

「ああ、見つけた」

ヴェイルの視線の先に、二つの魂が浮かんでいた。

一つは、まだ現実を理解してないのか、ふわふわと漂ってる。

もう一つは、なぜか川の中をじっと見下ろしていた。

「……なぁ、あっちの方ヤバくね?」

「うん、まずい」

川を見下ろしてる方の魂。

男の形をしてるけど、すでに体の周りが黒く濁り始めている。

悪霊になる一歩手前ってやつだ。

「……まだ助かる……まだ……!」

男の魂は、川に沈んでいく車をじっと見つめながら、小さく呟いていた。

「……ヴェイル」

「早めにやらないとダメそう」

オレとヴェイルは軽く目配せをして、そろって男の前に降り立った。

「おーい、お前もう死んでっから」

男がビクッと肩を震わせて、オレらの方を向く。

目が合った瞬間、顔色が変わった。

「な……なんだ、お前ら……?」

「死神。お前、もう死んでるぞ?」

「は……? 何言ってんだよ、俺は……!」

そう言いかけて、自分の手を見下ろした男の顔が真っ青になる。

そりゃそうだろうな。

自分の体が黒くなってんだもん。

「……そんな、ウソだろ……?」

「ウソじゃねぇよ。ほら、そろそろ行くぞ」

オレが魂を回収しようと手を伸ばした瞬間、男がガタガタ震えながら後ずさった。

「いやだ……まだ行かない……!」

「おいおい、メンドくせぇな」

「俺はまだあいつを助けなきゃいけないんだ!」

――次の瞬間、男の体から黒い靄がぶわっと広がった。

……やべぇ。

こいつ、完全に未練に囚われちまってる。

「ヴェスペル、抑えて」

「オッケー」

オレは男の魂に向かって、手をパッと広げた。

「おやすみ」

呟いた瞬間、男の体がビクンと震える。

オレの力が作用して、魂の動きを一瞬止めたんだ。

その隙に、ヴェイルがスッと男の胸に手を当てる。

「さようなら」

ベガがそう言った瞬間、男の魂がふっと光に包まれ、静かに消えていった。

「……ギリギリ」

「ああ、あと少しで悪霊化してたな」

オレたちはため息をつくと、もう一つの魂まだふわふわしてる方のやつを回収して、その場を後にした。

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