第16話
(言わなければ)
ずっとそう思いながら、言い出す機会がないままひと月余り過ごしてしまった。
(機会がなかった?)
それは言い訳だ、言い出す勇気が無かっただけだ。
だが、いつまでも隠し通せることではない。
美月はその場にひざまずき、額が床につくほど頭を下げた。
「申し訳ございません」
突然の謝罪に、煌は言葉もなく美月を見下ろしている。
美月は、全身が震えるのを抑えることができなかった。
真実を打ち明ければ、怒られ、あるいは軽蔑され、おそらく離縁を言い渡されてしまうだろう。
何より、煌を失望させてしまうのが怖かった。
覚悟していたはずなのに、胸が、バクバク鳴っている。苦しい。
だが、隠したままではいられない。言わなければ。
煌を騙すようなまねはしたくない。
「わたしは三条西家の娘ですが、破魔の力を、持っておりません」
声を絞り出すような告白に、煌は何も言わなかった。
今さら言うのかと、呆れられてしまったのかもしれない。
「お許しください。婚礼の前に申し上げるべきでしたのに」
しばしの沈黙の後、返された言葉は、
「何を今さら」
冷たいひと言。
やはり呆れられ、軽蔑されたのだろう。
これでお終いだ。
続く言葉は「離縁する」か。
覚悟はしていたつもりでも、失意に手足が凍るように冷える。
煌が、床に座る美月の腕を掴んだ。
「立て。俺を、愚弄するのか?」
「いいえ、けっして……」
「お華族さまはどうか知らないが、俺は士族の男だ。男は妻子を護るもの、妻の破魔の力で護られようとは思わん!」
言われた言葉が、すぐには呑み込めなかった。
まるで、美月に破魔の力があろうがなかろうが、どうでもよいのだと聞こえた。
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