第15話

 食事を終えて部屋に戻った美月は、いつもどおりにミィに夕食を与えた。

 それから、衣桁に掛けたままだった煌の長着と羽織を畳み、考える。

(どうしよう、すぐに伺ったほうがいいのかしら。少し時間をおいたほうがいい?)

 しばし迷ったが、明日も早く出勤する煌のことを思えば遅くならないほうがいいだろう。


 着物を抱えて廊下に出る。

 ドアの下のわずかな隙間から明かりが漏れているのは、書斎ではなく寝室のほうだ。

 煌が書斎にいるときは仕事中だから邪魔をしてはいけないと、タキから教わっていた。

(寝室にいらっしゃるのだから、今は大丈夫ってことよね)

 煌の寝室を訪ねるのは、タキが留守にしたあの晩以来だ。

 美月は緊張しながら、ドアをノックした。

「入れ」

 命じ慣れた鷹揚な声。

 美月はそっとドアを押し開けた。

「失礼いたします、旦那さま。お着物をお持ちしました」

「ありがとう。見てもいいか?」

 さらりと礼を言われ、美月は驚いて煌を見た。三條西家では美月の針仕事に礼を言う者などいなかった。

 ポカンとして、それから慌てて返事をする。

「もちろんです。どうぞ」

 煌は美月から着物を受け取ると、一度ベッドの上に置き、それから手にとって広げた。

「着てみていいか?」

「はい」

 煌は着ていた着物をその場で脱ぎ、長襦袢の上から新しい着物をまとった。

 妻ならば着替えを手伝うべきだろう。美月は側に寄って帯を貝の口に結んだ。

 こんなふうに起きている煌に触れるほど近寄るのは初めてで、自分とは違うたくましい体と温もりにドキドキしてしまう。

 羽織を広げて袖を通し、前に回って紐を結ぶ。

 それから三歩下がって煌の姿を眺め、衣桁に掛けて見たよりずっと素敵で嬉しくなった。

「良かった、お似合いです」

 思わず口にして、なんだか自分が縫った着物を褒めたようだと思うが、言い直す言葉も見つからずに俯いてしまった。

 煌は、「そうか」とだけ言って、姿見の前に立った。

 そして振り返り、

「三条西家のご令嬢には、こんな特技もあるのだな」

 おそらく他意もなく口にされたその言葉に、美月は冷水を浴びせられた心地がした。

 人々が三条西家の令嬢に期待するのは、和裁の能力などではないのだ。

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