第17話
「女が土下座などするな」
はしたないと思われてしまったのだろうか。
「も、申し訳ありません」
「てっきり、離縁してくれと言い出されるのかと、肝が冷えた」
吐息混じりに、煌が言った。
(わたしが離縁されるのではなく?)
煌の精悍な美貌が正面から美月を見下ろしている。
真っ直ぐなその眼差しに、胸が射抜かれる心地がする。
「不満があるなら言え」
「いいえ、わたしは……」
「ならば、あなたは俺の妻だ。それで良いのだな?」
夫の口から「妻だ」と言われ、それだけで胸が驚きに跳ねた。
トクトクと早鐘のように高鳴る鼓動。
(わたしを、妻と認めてくださるの?)
(破魔の力がないと知っても、なお……?)
信じてよいのだろうか。
何か、都合よく勘違いしているのではないかと不安になる。
なのに、頬はかってに熱くなる。
自分はきっとのぼせて変な顔をしている、美月はそう思った。
恥ずかしさに俯くと、力強い指先で頤を持ち上げられた。
顔が近すぎて、煌の目しか見えない。
「美月」
はじめて名前を呼ばれた気がする。
優しい響きが、なんだかくすぐったい。
「いいか?」
何を訊かれたのか、このときはわからなかった。
重なる唇。
あたたかい。
熱い舌が美月の舌を絡めとる。
(これが、接吻……?)
唇が、舌が、こんなに甘いなんて知らなかった。
膝が震える、立っていられない。
抱き支えられ、気がついたときにはベッドで幾度目かの接吻に酔っていた。
(え……?)
帯が解かれ、肌があらわにされていた。
煌が、子供の言い訳のように耳元でささやく。
「クソ上司から、いつまでも手を出さずにいては新妻に逃げられるぞと脅されたばかりだ」
「そ、そんなことで逃げたりは……」
否定の言葉は唇で塞がれた。
大きな手が、肌を這う。
突然のことに抵抗しそうになったけれど、たった今「逃げない」と口にしたばかりだ。
(そうよ、逃げてはダメ。これは、妻の当然の務め……)
頭では理解しているつもりでいたが、美月にはなんの知識も覚悟もなかった。
初めてのことに体を固くして、煌の動きにただ翻弄される。
熱い唇がうなじを辿り、全身がぞくりと震えた。
「嫌か?」
美月を見下ろし、煌が尋ねた。
不安そうな、頼りない表情。
(こんな顔を、なさるの?)
場違いにも、護ってあげたい気持ちになった。
こんな気持ちは初めてだ。
愛おしさが、胸にこみ上げる……。
言葉にできず、両腕を煌の首にそっと巻きつけた。
怖いけれど、嫌ではなかった。
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