4 告白
第14話
「出来た」
縫い上げた長着と羽織を衣桁に掛け、美月はうっとりと眺めた。
これまで男物の着物など双子の兄浩一郎の浴衣くらいしか縫う機会が無かったため、慎重になって思いのほか時間がかかってしまったが、出来は悪くないと思う。
煌は仕事柄、洋装での外出が多いが、休みの日には和服を着てすごしているようだ。
(そのお休みが、滅多にないのだけれどね)
溜め息が出ないよう、美月はきゅっと口を引き結んだ。
美月が嫁いできて、もうじきひと月になる。その間、煌が仕事に行かなかったのは二日だけだ。
「そりゃあ、お仕事は大事でしょうけど。ねぇ、ミィ?」
猫のミィを抱き上げ、話しかける。
訊きたいことや話しておかなければと思うことはさまざまあるのに、過去のたった二日間の休みにも煌は部屋に閉じこもって食事にしか顔を見せなかった。仕事で疲れているのがわかるので、美月はなかなか話を切り出せないまま今に至っている。
その数日後、久しぶりの休日だった煌は朝食に姿を見せたきり、やはりずっと書斎に引きこもっていた。
書斎で書き物をしているらしいので、美月は邪魔をしないよう自分の部屋で静かにすごした。
昼食の時刻になっても煌が書斎から出てくる気配はなかった。
食堂で煌を待っていた美月に、タキは、
「奥さまはこちらで召し上がってくださいね」
そう言って肩をすくめ、煌のお膳を書斎に運んだ。
そして、夕食時になってようやく、煌は半日ぶりに食堂に現れた。
「いただきます」
それだけ言って無言で食事をする煌に、美月は思い切って声をかける。
「あの、旦那さま」
煌は「なんだ」とも言わずに、視線を上げて美月を見た。
美月は気後れしながらも、己を奮い立たせて言葉を続ける。
「旦那さまのお着物を縫ってみましたので、あとでお部屋にお持ちしてもよろしいでしょうか」
「着物を? あなたが縫ったのか?」
驚いた顔で、煌が尋ねた。
「はい」
押し付けがましいと思われたのではないかと不安になり、美月の返事は小声になった。
「では、あとで持ってきてくれ」
「はい」
それだけで会話は終わってしまったが、美月は一歩前に進めた気がした。
煌の部屋に入っても良いと言われたのは初めてだ。
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