第12話

「おい」


 優しく肩を揺すられ、美月は目を覚ました。

 窓から差し込む光が明るい。朝だ。

 顔を上げると、目の前に煌の精悍な美貌があった。

「だ、旦那さま、おはようございます」

 反射で挨拶しながら、昨夜のことを思い出す。

 どうやら美月は煌の寝顔を見ながら、床に座ってベッドに頭を乗せたまま眠ってしまったようだ。

(わたしってば)

 とんだ失態だ、美月はうろたえた。


「こんなところで寝るな、風邪をひくぞ」

「も、申し訳ありません」

 美月は恥じ入って退室しようとしたのだが、煌はかまわず語りかける。

「あなたが、薬を飲ませてくれたのか? タキはどうした?」

「タキさんはお孫さんの体調が悪いとかで、娘さんのところへ行かれました。それでわたしがお薬をお預かりしたのですが、旦那さまはお薬を飲まれる前にご自身で浄化なさったようでしたので」

 薬の包みは枕元の小さなテーブルに乗っていた。

 煌はそれを見て、それから美月に視線を戻した。なぜだろう、納得していない顔つきに見える。

(わたし、なにかお気に召さないことをしてしまったかしら)

 まっさきに思い当たるのは、煌のベッドに頭を乗せて眠ってしまっていたことだ。

(近寄るなと言われていたのに。しかも、行儀悪くうたた寝して)

 美月は叱られるのではないかと不安になった。

 しかし、煌はそんな美月の腕を掴み、覗き込むように尋ねる。

「どこか、痛むところはないか? 気分は?」

「え……いいえ、どこも」

 美月の返事に、煌はほうっと手の力を抜いて視線を落とす。

「そうか。それならいい」

「……?」

「瘴気に当てられて、命を落とす者もいるのだ。帰宅後の俺に気安く近寄るな」

(旦那さまは、わたしの心配をしてくださったの?)

 それだけのことだが、美月は嬉しくて鼓動が高鳴った。

 同時に、煌の任務の過酷さを思うと胸が痛んだ。

「旦那さま、あの、お体は……?」

「もう回復した。思いのほかぐっすり眠れたようだからな。まだ朝食までは間があるだろう、あなたも部屋に戻って休め」

「はい」

 逆らわずに頭を下げ、ドアに向かいながらも振り返って尋ねる。

「あの、旦那さまはもうご出勤ですか?」

「いいや。今日は半休だ、昼に出る」

「それなら朝食はご一緒できますね」

 笑顔で言った美月に、煌が目を見開いた。

(いけない、よけいなことを言ってしまった?)

「失礼いたします」

 美月は深々と頭を下げて、急いで部屋を出た。

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