第8話 食事会
宴会、祝宴ができるホテルに到着した。
この日の為に予約を取っていたのだろう。ホテルの従業員が親切に案内してくれた。
「お父様、お待たせ致しました」
「アリサ、お疲れ様。さあ、座って」
「失礼します」
アリサさんとお辞儀をして着席した。ここで間違っていないよね?
「明菜ちゃん、久しぶりだね。去年のお花見以来かな?」
「お久しぶりです。誠一郎さん」
誠一郎さんこと水島社長とは去年のお花見のときに友達になった仲で、たまにメールのやり取りをしている。
「以前会ったときより綺麗になったね。ところで、そちらの彼は?」
「明菜さんの彼氏です。お父様」
「彼氏? そうか。君が男子バスケットボール部のエースか」
伸司がオドオドしている。
何で僕を見る。助けてほしいのか。まったく、しょうがないな。
「誠一郎さん。実は僕と彼は幼馴染で、成り行きで交際をしているんです」
「成り行きでかい? でも、彼はモテるだろう」
「そうですね。モテます。けど、僕に一途なんですよ」
お母さんが声を抑えて笑っている。何故に?
「いや~、最初聞いたときは驚きましたよ。幼い頃からずっと一緒に遊んでいた彼がうちの娘に気があったなんて」
さらに笑う、お母さん。
だから、何で笑うの? 何かおかしなこと言った?
「お父さん、伸司をいじめないで」
「いじめていないぞ。事実を言ったまでだ」
その事実が余計だって言いたんだよ。お父さんの馬鹿。
「アリサ、彼のことが気に入らないのかい?」
「気に入らないとかではなく、単にライバルだと思っているだけです」
「ライバル? もしかして、明菜ちゃんを狙っているのか?」
「違います。まあ、明菜さんの親友になりたいのは事実ですが」
誠一郎さんが納得した表情を浮かべた。
アリサさんと仲良くしたいのは僕も同じだ。できれば、親友になりたいと思っている。けど、伸司が邪魔するだろうな。嫉妬深いから絶対怒るはずだ。何で俺を放っておくんだ!って。
「親友か。なら、もっと親睦を深めないとな」
「はい」
料理が運ばれてきた。
今日は中華料理か。美味しそうだな。大海老のチリソース煮。
「そう言えば、この円卓って中華料理を食べるときによく使うテーブルだ」
「そうだね。ぐるぐる回すのが結構楽しいよね」
ひとりずつ配膳していく。
この人数だとすぐになくなりそうだな。でも、欲張るのはマナー違反だ。ひとり当たり、二個か三個くらいか?
「では、頂きます」
「頂きます!」
まずは、大海老のチリソース煮からだ。どれどれ……。
「辛さがちょうど良くて美味しい!」
「うん! 美味しい!」
料理がどんどん運ばれてくる。円卓がもうすぐいっぱいだ。
「明菜、肉団子を食べなさい。美味しいぞ」
「うん」
皆、食事に夢中だ。伸司なんてお父さんにご飯がないか聞いている。
「社長、チャーハンはありますか?」
「博一さん、追加注文してもらってもいいですか? もちろん、私のも」
「分かりました。すみません!」
お父さんが従業員を呼んで、チャーハンを追加注文している。僕も欲しい。
「お父さん、僕も!」
「明菜も食べるか? 分かった」
追加注文してくれた。これでお腹いっぱい食べられる。
「明菜さんって結構食べるんですね。どのようにスタイルを維持しているんですか?」
「食べ過ぎたときは、ダイエット器具を使って運動しているよ」
「なるほど、食事量に合わせて運動しているんですね。偉いです」
アリサさんが微笑んでいる。
僕が思うに、アリサさんも美少女だと思うんだけどな。髪がプラチナブロンドってところが良い。
そう言えば、アリサさんってどこの国の血を引いているんだろう。気になる。
「アリサさん、ちょっといい?」
「良いですよ。何でしょう?」
「アリサさんってハーフだよね。どこの国の血を引いているの?」
「日本人とイギリス人のハーフです。でも……」
アリサさんが俯いてしまった。まさか……。
「ごめんなさい。軽率な質問だった」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ、気を遣わせてしまってすみません」
この様子だと、母親とは死別しているみたいだな。深く聞くのはやめよう。
「明菜、チャーハンが来たぞ」
「あっ、ありがとう」
この場合、食べて気を紛らわすしかない。よし、食べよう。
「伸司、美味しいね」
「そうだな。これなら二杯目もいけそうだ」
「伸司君、もうひとつ食べる?」
「はい、お願いします」
伸司がチャーハンを夢中になって食べている。
ん? アリサさんがこっちを見ている。何だろう。
「どうしたの? 僕の顔に何か付いている?」
「明菜さん、プライベートな事を聞いてもよろしいでしょうか?」
「良いよ。何?」
「明菜さんはどうして女性になったのですか? 気になっているので教えてください」
何で女性になったか。それはそうするしかなかったからなんだよな。何て答えよう。
「えーっと、生理が起こってしまったからというのが一番かな。あと、体が女性になっていったんだよ。まあ、かかりつけのお医者さんからの言葉が一番影響があったと思う」
「お医者様は何と?」
「『生理が起きてしまった以上、女性として生きるしかない』と言われたよ。今思えば、良い決断をしたと思っているよ」
「そうですか。教えていただきありがとう御座います」
アリサさんも納得したみたいだな。さあ、食べよう。
「それにしてもよく食べますね。私、少食なので羨ましいです」
「そう? 普通くらいだと思うけど」
「いや、普通じゃないだろ」
伸司が横からツッコミを入れてきた。普通じゃないのか、この量。
「あ~、美味しかった。満腹だ」
「伸司、本当に遠慮ないね」
「こんなに美味しい料理を遠慮しながら食べるのは失礼に値するだろ」
「まあ、そうだけど」
軽く笑った。
ん? 伸司の顔が少し赤くなった。
「まったく、彼女としての自覚を持ってほしいぜ」
伸司がボソッと何か言った。
少ししか聞き取れなかった。何て言ったんだろう。彼女の何?
「何か言った?」
「何も言っていないよ。それより、皆食べ終わったぞ」
「え? 僕だけ? 嘘!」
誠一郎さん達が待っている。急がないと。
「明菜ちゃん、急がなくていいよ。まだ、デザートが残っているし」
「すみません!」
皆が見守る中、僕は夢中になってチャーハンを食べた。
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