第9話 伸司の求めるもの
食事会のあと、アリサさんと連絡先交換をした。
それは良かったけど、色々質問攻めにあってしまった。内容は、何故伸司を彼氏にしたのか。
彼女に言わせれば、強引に彼女にされたのではないかと言いたいらしい。これには僕も困った。なんせ、伸司の真意を知らないからだ。
そう言えば、何で僕を彼女にしたんだろう。失敗すれば関係がぎくしゃくするに決まっているのに、お構いなしに好きだと言ってきた。もしかして、失敗しても友人関係が保たれると思っているのだろうか。もしそうなら、それは大間違いだ。
「明菜。おーい」
「え? あっ、ごめん。何?」
「考え事か? ここを教えてくれ」
「うん、いいよ」
考え事をしていたせいで、伸司が呼んでいることに気付けなかった。これはいけない。
「ここはこの数式を使って……」
伸司が真剣に聞いている。やっぱり格好良いな。
「明菜、ちょっといいか?」
「何?」
「今、何を考えていた? もしかして、俺のことか?」
図星を突かれた。なんて勘の鋭さだ。
「えーっと……。うん、そうだよ」
「もしかして、彼女でいるのが嫌になったとか?」
「違うよ。ただ伸司は勇気があるなと思っただけだよ」
「勇気? どういうことだ?」
この際だから考えていることを言ってしまおうかな。その方が楽だ。
「伸司。もし僕との関係が失敗に終わったら、どうなるか考えたことある?」
「考えたことあるぞ。友達に戻れないとかだろ」
「うっ、うん、そう」
「だから、俺は必死なんだよ。お前が俺の側から居なくなるんじゃないかってな」
何だ。ちゃんと考えているじゃないか。
「ごめん。何も考えていないのかと思った」
「まあ、アリサさんという強敵が現れたから焦ってはいるけどな」
アリサさん?
あー、なるほど。アリサさんに独占されると思っているのか。それは有り得る。
「それは有り得るね。だって、アリサさん可愛いし」
「やっぱりそう思っていたか。でも、真面目過ぎて付き合いにくくないか?」
「そんなことはないよ」
真面目なのは良いことだ。それになんでも相談に乗ってくれる。良い人なのは確かだ。
「ん? メールが……」
スマートフォンにメールが届いた。
あれ? アリサさん?
「どうした?」
「アリサさんから何を話しているの?ってメールが」
アリサさんがこっちを見ている。今はちょうど昼休み中。こっちに来て話に加わればいいのに。
まったく、空気が読める良い人だ。
「アリサさん!」
アリサさんに向かって手招きした。
こっちに向かってくる。怒っている様子はない。大丈夫かな?
「明菜さん、何をお話していたのですか?」
「主に秋山君のことを話していたよ。ほら、昨日のこと」
「なるほど、何でお付き合いしているのか、についてですね」
「そうそう」
アリサさんが伸司を見つめている。喧嘩だけはしないでくれよ。
「秋山君、何故ですか?」
「純粋に好きだからだよ。それ以外、理由はないよ」
「そうですか。でも、他の女の子によく話し掛けられていますよね」
「それは仕方がないじゃないか。何で俺と明菜を別れさせようとするんだ」
「単に気に入らないからです」
なるほど、気に入らないから伸司にプレッシャーを掛けているのか。どうりで伸司をよく見ていると思った。
「まあまあ、落ち着いて」
「明菜さんは私と秋山君のどちらが好きなのですか?」
究極の選択を迫ってきたな。どうしよう。
「同じくらい好きだよ」
「…………まあ、いいでしょう。許します」
伸司が溜息を吐いた。納得してくれたようで良かった。
「とにかく、俺が明菜に求めているものは純粋な愛だ。それ以外はいらない」
「純粋な愛ですか。独占欲の塊ですね」
これ以上はいけない。喧嘩になる。
「アリサさん、ちょっと言い方を考えてよ。伸司だって真剣なんだから」
「……すみません。以後気を付けます」
ふぅ、これで大丈夫な筈。
「明菜、ありがとう」
「うん」
アリサさんが少しふて腐れている。余程、伸司のことが気に入らないみたいだ。何でだろう。単に気に入らないだけじゃない筈。これは追求する必要があるな。
「明菜。昼休みが終わるから、また後で教えてくれ」
「もうそんな時間? 分かった。また後でね」
そのまま解散の形になった。
アリサさん、何でなんだ。何でそんなに伸司をいじめる。もしかして、本当に僕のことが好きなのか。それは困るな。
「よし、予習でもしよう」
気を紛らわすには勉強が一番だな。よし、頑張ろう。
僕は予習に集中した。
*
――放課後。
「明菜。今日は男子バスケ部に入部しに行くから、先に帰ってくれ」
「うん、分かった。それじゃあ、お先に」
伸司とはこれから先、放課後を一緒に過ごせなくなる。寂しいけど、仕方がないことだ。
それより、アリサさんだ。またこっちを見ている。
「明菜さん」
帰る支度をしている間にアリサさんがやってきた。もしかして、またどこかに行くのかな。
「何? アリサさん」
「正門に迎えの車を待たせているのですが、一緒に帰りませんか?」
「お迎え? うーん……、どうしようかな」
車の中で何か聞かれるかもしれない。心の準備だけはしておこう。
「駄目ですか?」
「いいよ。一緒に帰ろう」
アリサさんの表情が晴れた。嬉しそう。
「では、帰りましょう」
手をつかまれた。すべすべしていて気持ちが良い。
「ちょっ、待って!」
僕はアリサさんに手を引かれ、連行された。
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