人は死んだら、どうなるか

篠騎シオン

さよならのその時に

「あそこの奥さん、いっつも露出高い服着てるでしょ。どうも水商売しているらしいわよ」


「いやね、女を売るしか能がないなんて恥ずかしい」


「息子さんも可哀そうよね。あんなのがお母さんだなんて」


井戸端会議をするおばさんたち、

と、その周りにふわふわと、ううん、ぼわぼわと浮かぶ羽のついた大きな塊。

綺麗な羽をもっているけど、真っ黒な服を着て、でっぷり太った妖精さん。


おばさんたちが悪口、噂話をしていくごとにその体を大きくしていく。

体は重そうで、不快でいっぱいな顔。

そして、私を見つめる冷たい瞳。


『ああ、嫌だな』


私の心から綿あめのように白い気持ちがもれ、周囲へと広がる。

とても悪い気持ち。

それを私の妖精さんが吸い込むように食べておばさん妖精のでっぷりに少し近づく。


ため息をつき、立ち上がる。

時刻は夕方、町の中。いろんな人が行き交っていく。

主婦、子供たち、サラリーマン、学生さん……その隣には、必ず一匹の妖精。


まじめな人でもその妖精はでっぷりと太って真っ黒な服を着ていたりするし、幸薄そうな人でも白くてフリルの小さな綺麗な服を着た可愛い子を連れていたりする。人の見た目は結構当てにならない。


でも小さな子供たちの妖精は、カラフル洋服でみんな健康的に痩せている。

だから、私は思うのだ。


純粋な妖精を連れて私たちは生まれる。

死ぬその時に、どう生きたかの証明である自分の妖精の姿かたちによって審判を受けるのだと。

きっと認められれば、幸せな妖精の国にでも行ける。

それが、私の憧れ。


屋上のあるビル。

ふんわりと空に飛び出すつもりで、階段をのぼる。

1、2、3、4、5。


そこまで登ったところで、私は妖精に視線を向ける。

彼女の服はチカチカとその色をダークな色合いに変えようとしていて、体も膨らみ始めている。


6段目。


彼女は苦しそうに顔を歪める。

体は2倍ほどに膨れただろうか。

服の色はもう元の色合いを思い出せないほどに濁っている。


深い深いため息。


多分これじゃ、ダメなのだ。

諦めて階段を降りると、彼女は元の体型へと戻る。

でも少しだけ、服の色は濁ったまま戻らない。


――しあわせになる、方法がわからない。

だから、もう少しだけこの世界を彷徨って、いく。

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