お話
アクミは電車と喋り始めた。
「なんで知能が付いたの? あなたはだいぶ前にリタイアしたはずなんだけど…」
「ポーン… ポーン…」
この時点で、呪いの都合上アクミは時報音から言葉を読み取れる様になった。
「…そんなに覚えてないって? 大丈夫、気にしないで…」
****
「ポーン…」
「えっと、私はただの電車が好きな乗車員だよ… ハチゴーの感じが特に好きでね、えへへ…」
警笛。
「そんな、シャイにならないでよ! 本当に久しぶりにハチゴーに乗れて嬉しいばかりだし、ありがとう、ね!」
電車が前を進む間、車体から鳴り響くエンジンや摩擦音が狭いトンネルを響き渡る間、アクミとハチゴーは乗車員と電車、という立場を崩さなかった。
「ポーン、ポーン… ポーン…」
「構わないよ。 どうしたの?」
「ポーン… ポーン…」
「ああ、ただ… どこか遠く、果てしない所まで行きたかっただけ。 あなたの走行を優先するよ。」
と言いつつ、アクミはもう一言。
「なんならあなたと永遠に乗り続けてても構わないの。 このトンネルが続く限り、あなたの好きなように…!」
****
警笛。
「あなたは私よりも大きい電車。 他の人も乗せるだけのサイズに何処までも走り続ける力があるでしょう?」
再び警笛。
「ええ? 私だけでいいって? …恥ずかしいな。」
シャイな電車の一言はアクミの情を初めて獲得した。
「ポーン…」
「いいよ。」
****
そう言うと、電車はトンネルの中で摩擦音とともにゆっくり止まる。
それでドアが開く。
アクミは床に座ってから地面に降りて、線路内に入ると電車はドアを閉めた。
アクミが電車の表に向かう間、電車もゆっくり後ろに動いて、スペースを空ける限り。
電車の丁寧で慎重な動きと共に、アクミは狭い間を縫って行く。
そのうち、アクミが立った先にはハッキリとハチゴーの顔が見えていた。
静寂。
アクミとハチゴーは見つめ合った。
****
そのうちアクミが喋り始める。
「ハチゴー…」
電車の中、遠くから聞こえる時報音は会話をするのには十分だった。
「もう気づいてるかもしれないけど…」
「私、本当に電車が好きなの。 あなたみたいな編成とまた出会うのは電車が好きになってからの夢だったの、ちょっと遅かったけど…」
遠い「ポーン…」
「ハチゴーが現役で走ってた間、その存在に気づかなくて何て恥ずかしい事やら…」
「そのね。 正直に言うと、私…」
アクミが顔を赤くして、一言。
「あなたの事が好きです…!」 彼女の電車に告白する勇気はハッキリとしていた。
ハチゴーも長い警笛を出して、それに返事をした。
「そうだよね! ああ、私って変な人…」
****
もう一つ、短い警笛を鳴らしたハチゴーはアクミを馴らした。
「…ええ? 受け入れてくれるって?」
遠い「ポーン…」
「あ、ありがとう…! 私の遠い夢を叶えてくれて、嬉しいよ、ハチゴー。」
短い警笛。
「じゃあ! 旅の続きに出よっか?」
遠い「ポーン…」
****
電車のドアが開くと、アクミは嬉しそうにそれに向かう。
少しの努力の元、アクミが電車の中に戻ると席に着いた。
電車はドアを閉めて、元気よく、また動き出す。
電車が前を進む間、車体から鳴り響くエンジンや摩擦音が狭いトンネルを響き渡る間、中から感じる勇気はこれからの行く先を明るく照らした。
これが、暗闇を消し去るような明かりの、始まりだった。
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