梶ヶ谷リアムの暗闇と光
テヴェスター
始まり
出発
アクミみつきは携帯の連絡先の画面を見つめる。
そのうちの一つは彼女の元カノ。
それを見て、もう2度と話し掛けてこない事を覚悟して、涙ぐむ。
「ごめんなさい…」 そう意味もなく謝ると、その画面を消した。
それで、アクミは何処かに向かう準備をした。
外に出ると、暗闇に包まれた梶ヶ谷の情景が彼女を包み込む。
暗い空、重たい雲に暗闇そのもの。
暗闇の呪いである梶ヶ谷メアリーによって光を失った梶ヶ谷の寂しさはアクミの体制に現れる。
大きな沼の伝説の線路がアクミの歩く丘の下に長く敷かれて、坂を降りた先にはバスロータリーと自転車置き場の入り口があって、それで梶ヶ谷駅に着く。
駅に入ると、プラットフォームの先の方で、寂しく待つ。
****
アナウンス。
そろそろ電車が来る。
それで次にアクミが見たものは普段とは掛け離れたものだった。
東急電鉄8500系、8606F。
引退したはずの電車がリバイバルしてやって来た。
電車は駅に入るとゆっくり、ゆっくりと運転を続け、やっと定位置に止まる。
アクミの一言。
「ハチゴー…!」
…静寂。
アクミは電車のドアが開くまでの間、写真を撮りながら電車の表を見つめた挙句、待った。
興奮して手が震えるあまり、アクミは電車に乗った。
****
ああ、なんて心地よくないのだろう、と懐かしい思いのままに手すりをかすめて思い出す限りであった。
「しばらくだね… そう思わない?」
誰も居ないからこそ、アクミは電車に話し掛けた。
「ポーン。」 電車の時報音が返事をするかの様だ。
席に着くと、アクミは嬉しそうに周りを見つめる。
その時点で、アクミは電車の知能、ましてや誰も運転していない事に気づいていなかった。
ドアが閉まると、電車は動き出す。
****
「次は、溝の口です。」
いつものアナウンスが場所を確定させた。
約束の通り電車は溝の口に止まり、少し待つとドアを閉めて、また出発する。
「……」
次の駅にはアナウンスが無く、それどころか電車は長く、永遠に続くトンネルに入った。
「あれ。 溝の口の次ってトンネルだったっけ。」
アクミは疑問に思ったが、正気を保った。
そろそろ、アクミが不自然な雰囲気の空間から不快を読み取ったあたり、時報音にパターンがある事に気づく…
電車も、その時点で知能を隠さず、「鉄の呪い」のままに見せた。
「ポーン。 ポーン、ポーン。」
「ええ? 音にパターンがあるの…? もしかして?」
アクミはあまりにも嬉しくて、知能がある電車、という彼女の妄想に思うがままに買い付けた。
****
「…こんにちは?」
彼女がそう話すと、電車は警笛を鳴らして、トンネルの空間を響かせる。
その他に返事する者は居なかったが、電車そのものだけだ。
「…あなた、知能があるのね、ハチゴー。」アクミは確定した。
もう一つ、警笛。
それは事実であった。
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