釧岳の逆落とし
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──釧岳の逆落とし
俺たちが大急ぎで展開した山は釧岳山と呼ばれる山で、川港に近い山の中では3番目に高い山だった。そして、それは敵の集結地点から南に5キロ進んだ場所にある山だ。
俺たちは敷島国の陸軍部隊──正確には警察予備隊って呼ばれてる連中──と一緒にこの山を制圧しにかかった。
幸いなことに釧岳山は険しすぎて敵の車両は進出できておらず、敵はほとんど存在しないも同然だった。少数の斥候部隊も敷島国の山岳戦に慣れた連中が手早く片付け、アルカディア連邦から敷島国に供与された口径75ミリ山砲などが布陣。
俺たちも配置に就く。
『ねえ、正気なの? こんな作戦は滅茶苦茶だと思うけど』
アーデから俺がついにぶっ壊れたんじゃないかと心配する通信が届いた。
「全く正気だよ。これしか勝機はない。これを逃せば川港は落ち、俺たちは全員
『それはごめんだけど、この作戦で死ぬのもごめん』
「じゃあ、気合を入れな!」
俺の立てた作戦はシンプルだ。一方的に敵をぶん殴れる環境で思う存分ぶん殴り、そのまま殲滅する。そして、勝利する。
『スノーバードよりメタル・ツー。敵軍が移動を開始した。そちらに向かっている』
そら来た! 敷島国が残した残地工作員からの報告に俺はにやりと笑う。
「メタル・ツーより各機。敵が見えたら一斉にやるからな。転ぶんじゃねえぞ」
『了解です!』
俺たちは展開しているのは鋭く険しい山肌を上で、木々に捕まり、姿勢を維持している。機体に塗装された迷彩が上手い具体に俺たちを隠してくれており、敵からはこちらが見えないはずだ。
この険しい山肌を下った先には川港まで続く、整備された4車線の道路がある。ここいらで最大の道路だ。
俺たちがやることが分かってきたかい?
『スノーバードよりメタル・ツー。敵は間もなく予定地点まで進出』
「ああ。こちらからも見えてきたぜ、スノーバード」
敵の戦車と
「メタル・ツーより各機。準備はいいな?」
『メタル・スリー。準備完了だ、アーサー』
アンディとマットから、そして部下たちから了解の返事が来る。
『ニッケル・ワン。準備できてる』
アーデからもそう返事が来た。
「じゃあ、始めるぞ。パーティの始まりだ!」
俺は敵の戦車部隊が丁度、俺たちの下に来たとき戦端を開いた。
山肌を滑り降りながら、口径76ミリライフル砲を戦車の上面装甲に向けて叩き込む。戦車はどうしても上面装甲が弱くなるので、敵は今まさに俺たちに弱点を晒しているってわけだ!
「はっはー! その戦車の仰角じゃあ俺たちを狙えねえだろ!」
それに加えて戦車が主砲を上に向けられる角度──仰角はさほど高くない。つまり急斜面から狙ってくる俺たちを敵は狙えない!
これが俺が提案した一方的に敵をぶん殴る戦闘だぜ!
敵の戦車は面白いように吹っ飛びまくり、敵は大混乱。まだ無事な戦車や
そこに敷島国陸軍の山砲が火を噴いて砲弾を叩き込み、敵は完全に瓦解。
「メタル・ツーより各機! 残党を始末しろ!」
俺は命令を叫び、敵の隊列に突入すると目に見える全ての敵を攻撃した。
敵はこれによって旅団規模の戦力が壊滅し、川港攻撃のために結集していた戦力は消失した。俺たちのこの抜群の働きは川港の陥落と敷島国本土の危機という最悪の事態を防ぐことができたってわけだ。
もう給料分は働いただろ? そろそろ俺たちも後方に回してくれよ。
* * * *
またしても状況は最悪だ。何でかって? お偉いさんが来たからだよ。
「ようこそ、リード中将閣下」
ウィンターズ少佐がそう言って出迎えるのは、死守命令なんぞ下したろくでなし。第8軍司令官のアレクサンダー・リード中将だ。
このクソ野郎のせいで俺たちは危うくくたばるところだったと思うと、こいつに敬礼するのですら腹立たしく思えてくる。
「楽にしてくれ、諸君!」
当の本人は笑顔など浮かべて俺たちを見ている。くたばれ、クソッタレ。
「諸君の奮闘のおかげで、我々は無事に川港を失うことを避けられた。諸君らに感謝を示そう。よくやってくれた!」
「光栄です、閣下」
うるせえ、クソジジイ。感謝してるなら後方に回してくれよ。
「戦闘報告は読ませてもらった。大胆不敵な戦術だったと評価している。まさにシェルという機動兵器を扱う将兵に相応しい決断であったと。この釧岳での奇襲を考えた将校は君かね、ウィンターズ少佐?」
「いいえ。作戦を立案したのはキサラギ大尉です、閣下」
「ほう?」
そして、リード中将の視線が俺の方に向けられる。
「キサラギ大尉。君は名誉あるアルカディア陸軍に相応しい将校だ。貴官のような恐れを知らぬ将校がいるからこそ、我々は厳しい戦いに何度も打ち勝ってきたのである!」
「光栄です、閣下」
俺は死ぬのは凄く怖いし、
「今は残念なことに貴官のような将校が不足している。そうであるが故に貴官らにはもっと働いてもらう必要がある」
おっととー? 猛烈に嫌な予感がしてきたぞ……?
「我々は敷島国と共同して、敷島人民共和国への反撃に転じる。既にそのための準備が国連軍司令官であるスチュアート大将閣下の指揮で進行中だ。私はその作戦に君たちを参加させるべきだと思っている」
ああ。クソ、クソ、クソ。あれだけ殺したのに、まだ殺せっていうのかよ?
「では、諸君らのさらなる奮闘に期待する!」
くたばれ、クソ将軍!
俺たちは抗議することもできず、次の作戦とやらのために移動することになった。そして、どういうわけか川港を出て、再び東北に向かう海軍の輸送艦にシェルと一緒に乗っている。
「なあ、アーサー。俺たち勲章とかもらえると思うか?」
「ああ? そんなものがほしいのかよ、アンディ?」
アンディが少しわくわくした様子で尋ねるのに俺は不機嫌にそう返した。
「だって、勲章をもらったら自慢できるだろ。故郷の連中に俺は大統領から勲章をもらったって自慢してみたいんだよ」
「馬鹿だな。勲章なんて何の価値もないさ。俺たちにとって大事なのは生きて帰ること。それだけだ。生きて帰れなければ自慢もクソもないだろ?」
「そりゃあそうだけど……。あれだけ危険な目に遭って、凄い大戦果を挙げたってのに何もないってのはそれはそれで酷くないか?」
「何もなくはないだろ。あのクソ戦果のおかげで、俺たちは新しい戦場にぶち込まれるんだからな。あんな作戦、やるんじゃなかったぜ、畜生」
俺は心底後悔していた。あんな大戦果を挙げたばかりに、リードの馬鹿将軍にまた同じことがやれると思わせてしまった。あいつ、マジで馬鹿だろ。
あーあ。生きて国に帰りてーな。それ以外は本当にどうでもいい!
……………………
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