第10話 無価値

 朝に目が覚めてから数時間、私はひたすらベッドに横たわっていた。

 何をすることもなく、ただ鬱々とした感情を抱き続けていた。



 心の中では、一人の人間が私に罵詈雑言を浴びせていた。

 「お前には何の価値もないのだ」。その人間は私に向かって指をさし、そのような否定的な言葉を何度も放っていた。


 私はその言葉に抵抗しなかった。確かに、ベッドに横たわっているだけで何の行動も起こさないのだから、その言葉には一理あると思えた。


 私はSNSを開き、多くの他人が自分がいかに幸福であるかについて語っているのを目にした。

 彼らは家族、友人、恋人について、時には褒め、時には愚痴を吐くなどして、密接な関係を示していた。


 私は、「何故彼らはこうも他人と関わろうとするのだろうか」と疑問に思った。

 私にとって、他人とは煩わしい存在でしかなかった。むろん、その鬱々とした感情は自分自身にも向けられた。


 私は人間そのものを鬱陶しがっていた。他人とやり取りし、自他の価値を高めたり貶めたりするいう行為が、何とも面倒なことのように思えた。



 「お前には何の価値もない」。心の中の人間は、再びその言葉を私に投げかけた。

 私は「その通りだ」と返した。私には特別な人間関係などなかったし、他人を思いやれるほどの常識も持ち合わせていなかった。


 私はスマートフォンを置き、真白な天井を眺めた。

 無価値である人間が、相も変わらずこの世界に存在している。それが何とも滑稽なように思われた。


 私はその次に、死について考えた。

 たとえ今ここで命を絶っても、きっと誰も気づかないだろう。そう思うと、尚更面白おかしく感じられた。


 私は人間というものに、命というものに大した期待を抱いていなかった。

 私がベッドに横たわって休むのも、人体の持つ本能がそうしているだけで、私自身はそういった営みに何の関心も持っていないということに気がついた。


 私は、自分は何と薄情な人間だろうと思った。

 同時に、何故自分がこうも世の中に対して無関心でいるのだろうとも訝しんだ。


 いつからこうなったのかはわからない。ただ、長いことこの視点を持っているのは確かだった。

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