第3話 機械

 地下街はだだっ広かった。

 長い通路が一直線上にあり、通行人はひたすら真っ直ぐに歩き続けている、


 通行人の背を眺めながら、私は自分の意識が遠ざかっていくのを感じた。

 私は、自分はまるで迷路を彷徨い続けるラットのようだと思った。



 意識は地下街にのまれ、ただ緩やかな音楽だけが耳に入る。

 私の意識は現実から遠ざかり、遠く離れた場所から地下街を眺めているような気分になった。


 その時、地下街が1つの装置のように思えた。

 通行人は店で金を払い、まるで通貨そのもののように地下街を循環する。

 店は通行人を吸っては吐き出し、利益を上げている。



 「地下街は機械のようだな」


 目の前で手を繋ぎ合う恋人たちや、同じペースで歩く老人たちを眺めながら、私は一人心の中で呟いた。


 私は、この地下街で同じ光景を何度も目にしていた。

 せかせかと歩くサラリーマンや、重たげなエコバッグを持った中年の人々。通話をしながら歩く若者たち。


 私は地下街を歩くことに慣れていた。もっと言えば、地下街の光景についても、絵に描いて再現できるほどには記憶していた。


 はじめこそ素晴らしく新鮮な光景に映ったが、今はごくありふれた日常の一部として認識するようになっていた。



 店に入らずとも、その店が何を売っているのかが大抵は想像がついた。なので、店に入る前は何となく退屈な気分になった。


 それにも関わらず、私は時間潰しのために入店した。私は酒や菓子類をざっと眺めながら店を一回りすると、まもなく退店した。


 全てがありふれたもののように思われた。私は何をすることもなく地下街をぶらつき、足を疲れさせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る