シャーロックホームズ第3話「赤い指の謎」
第一章:奇妙な死体
霧の立ち込めるロンドンの朝、221Bベーカー街のドアが激しく叩かれた。扉を開けると、そこに立っていたのはスコットランド・ヤードのレストレード警部だった。
「ホームズさん、すぐに来てくれ!奇妙な事件が起きた!」
私、ジョン・ワトスン……いや、ワトスンは新聞を折りたたみながら、興味をそそられるような事件の匂いを感じ取った。
「どんな事件です?」とホームズ。
「被害者の手に赤い指跡が残されている。しかし、死因は毒によるもので、外傷は一切ないのだ」
「興味深い」とホームズは帽子を手に取った。「ワトスン、行くぞ!」
第二章:赤い指の跡
事件現場はロンドンの高級住宅街にある屋敷の一室だった。倒れていたのは中年の紳士、レジナルド・ファーガソン卿。彼の顔には苦悶の表情が浮かび、右手には奇妙な赤い指跡がくっきりと残っていた。
「毒殺されたようだ」とワトスンは診断した。「しかし、なぜこんな指跡が残っているのか……?」
ホームズは慎重にその指跡を観察し、ルーペを取り出してさらに細かく確認した。
「これは……血ではないな」
「では何なのだい?」とワトスンは尋ねた。
「顔料だ」ホームズはつぶやいた。「しかも、特定の種類の染料が含まれている」
彼は床にかがみ、被害者の周囲を入念に調べた。そして、壁際に落ちている小さな布切れを拾い上げた。
「これは何だろう?」
「絹の手袋の破片のようだな」
第三章:消えた来訪者
「誰かがこの部屋に入った形跡は?」
「それが……」と警部が渋い顔をした。「今朝の使用人によると、鍵は内側からかかっており、窓もすべて閉まっていた。まるで誰も出入りしていないかのように」
「なるほど、また密室殺人か」ホームズはつぶやいた。「しかし、犯人が消えたのではなく、そもそも最初から『入ってこなかった』と考えればどうかな?」
「どういう意味だ?」ワトスンが尋ねる。
「被害者は昨日、どこかへ外出していなかったか?」
使用人に聞くと、ファーガソン卿は昨夜、オペラ鑑賞に出かけていたことが判明した。
「そこで何かが起きた可能性が高いな」
第四章:劇場の秘密
ホームズと私はすぐにファーガソン卿が訪れた劇場へ向かった。劇場の支配人に話を聞くと、昨夜、彼はある女性と会っていたという。
「赤い手袋をした女性でした」
ホームズの目が鋭く光った。
「名前は?」
「彼女はアナベル・ローズと言います。舞台女優でしたが、最近引退したようです」
「彼女の居場所を知っていますか?」
「さあ……しかし、楽屋にはまだ彼女の荷物が少し残っているはずです」
ホームズは楽屋へ入り、アナベル・ローズの鏡台の前に立った。そして、そこに置かれていた赤い手袋を手に取った。
「まさにこれだ」
ホームズは指先で手袋を擦り、粉のようなものを指に取り、匂いを嗅いだ。
「これは特殊な毒薬が仕込まれた顔料だ。つまり……彼女は、握手するだけで毒を相手に塗ることができたのさ」
第五章:犯人の正体
ホームズはスコットランド・ヤードと連携し、アナベル・ローズを追った。彼女はロンドン郊外のホテルに身を潜めていた。
「ファーガソン卿を殺したのはあなたですね?」レストレード警部が尋問すると、彼女は観念したようにため息をついた。
「彼は私を裏切ったのよ……」
調査の結果、アナベルはかつてファーガソン卿の愛人だったが、彼が新たな女性と結婚したことで捨てられたことが判明した。復讐のために、彼女は劇場で彼に近づき、握手を交わすことで毒を仕込んだのだった。
「赤い指の正体は、毒を塗った手袋の染料だったのか……」ワトスンは感心したように言った。
「そうだ。顔料に毒を混ぜることで、彼女は密かに相手を殺す手段を生み出した。しかし、赤い指跡を残したことで、自らの罪を証明してしまったのさ」
こうして、アナベル・ローズは逮捕され、事件は解決した。
「ホームズ、今回も見事な推理だった!」
ワトスンが感嘆すると、ホームズは静かにパイプに火をつけた。
「犯罪者というものは、完璧な犯罪を目指すが、いつだって些細な手掛かりを残すものさ。ワトスン、それを見逃さなければ、必ず事件は解決するのだよ」
そう言って、ホームズは霧の立ち込めるロンドンの街へと歩みを進めた。
シャーロックホームズ第2話「消えた王冠」 コーシロー @koshirou
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