シャーロックホームズ第2話「消えた王冠」

コーシロー

第2話「消えた王冠」

第一章:消失した宝物


ある冬の日、ベーカー街221Bのドアが乱暴に開かれた。


「ホームズさん!大変なことになった!」


駆け込んできたのはスコットランド・ヤードのレストレード警部だった。彼の表情は血の気が引いており、息を切らせていた。


「王冠が消えたんだ!」


バッキンガム宮殿の宝物庫に厳重に保管されていたはずの王冠が、今朝方忽然と姿を消したという。しかし、警備の記録には異常がなく、宝物庫の扉には開けられた形跡すらない。まるで王冠が煙のように消えたかのようだった。


「興味深い」ホームズはにやりと笑った。「さて、ワトスン、我々の出番のようだ」


第二章:完全なる密室


ホームズと私はすぐさま宮殿へ向かった。宝物庫は頑丈な鉄扉で守られ、鍵は国王と王室警護官しか持っていない。さらに内部は最新の警報装置が設置されており、侵入者がいればすぐに警報が鳴る仕組みだった。


「鍵を開けて確認したのは誰です?」ホームズが警護官に尋ねた。


「今朝、通常の巡回時に確認したところ、王冠がなくなっていたのです!」


「昨夜の警備記録には異常がなかったのですね?」


「ええ、誰も出入りしていません」


ホームズはしばし思案した後、部屋の隅々を注意深く観察し始めた。やがて彼の目がある一点に止まる。


「ワトスン、床を見たまえ」


私は指示された場所を見た。そこには微かながら、靴の跡が残っていた。しかし、その跡は王冠の展示台の近くで途切れていた。


「奇妙だ」私は呟いた。「ここまで歩いてきたのに、どこへ消えたのか?」


「それが分かれば、犯人が分かる」ホームズはニヤリと笑った。


第三章:隠された手がかり


ホームズはさらに室内を調べ、展示台の裏に小さな黒い粒を見つけた。


「これは?」


彼はそれを指先でつまみ、鼻に近づけた。


「石炭の粉だ」


「しかし、ここは石炭を使う場所ではないぞ、ホームズ?」


「その通りだ、ワトスン。しかし、王宮の一部には今も石炭暖炉が使われている。特に古い通気口を利用すれば……」


ホームズは天井を見上げた。そして、ある一点を指差した。


「ワトスン、あの換気口を見てくれ。微かに黒ずんでいるだろう?」


私は頷いた。確かに、天井の換気口にはうっすらと煤(すす)の跡があった。


「つまり、犯人は換気口を通って侵入したのか!」


「その可能性が高い。となると、犯人はかなり細身の体格でなければならないな」


第四章:犯人の正体


ホームズは王宮の使用人名簿を調べ、細身の体格で石炭を扱う仕事をしている人物を絞り込んだ。そして、ある名前に目を留めた。


「チャールズ・グリーブス。王宮の炉番だ。彼は最近、夜間警備の者に差し入れを持って行っていたらしい」


「それが何か?」


「その差し入れが、実は睡眠薬入りの酒だったらどうだろう?」


ホームズの推理通り、警備員の一人が昨夜、不自然に眠ってしまったことが判明した。グリーブスの部屋を捜索すると、そこには王冠が隠されていた。


「こ、こんなはずじゃ……」


捕らえられたグリーブスは、ただ呆然と呟いた。


第五章:事件の真相


「彼の目的は何だったのだろう?」私は尋ねた。


「彼は借金を抱えていた。王冠を国外に持ち出して売るつもりだったのだろう。しかし、王宮の厳重な警備を突破するためには、密室を作り上げる必要があったのだ」


「換気口を使うことで、誰も出入りしていないように見せかけたのだね?」


「その通り、ワトスン。だが、石炭の粉という何気ない痕跡が、彼の完全犯罪を崩壊させたというわけだ」


こうして、王冠は無事に王宮へ戻され、事件は解決した。


「ホームズ、相変わらず見事な推理だ!」


私が感嘆すると、彼は微笑みながらパイプに火をつけた。


「犯罪者というものは、いつだって何かしらの痕跡を残すものさ。今回も例外ではなかったということだよ、ワトスン」


そして彼は静かに窓の外を眺め、ロンドンの夜に溶け込んでいった。

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