僕の妖精 KAC20253

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

僕の妖精

 ユリウスは出会った時から俺を「僕の妖精」と呼んできた。

「なんだよ妖精って」と笑うと決まって「だってアドルフは神秘的で儚げで妖精に見えるから」と 答えてた。

 まあ少年時代の俺は確かに人とは一線を画す儚い美しさがあったと思う。中身はただの生意気なクソガキだったけど。

 父親が騎士団長で自身も騎士を目指していたユリウスは俺と比べて男らしくて格好よくて、そんなユリウスに「僕の妖精、大好きだよ」と言われるのは悪い気分じゃなかった。

 やがて俺たちは大人になって、治癒魔法が得意な俺は治癒院に就職。ユリウスは念願叶って騎士団に入団した。

 ユリウスはやたらと女にモテた。俺はやたらと男にモテた。大人になっても儚げな外見が変わらなかったんだよ。

「俺もユリウスみたいにモテてえな」とぼやくと、ユリウスが真剣な眼差しで「僕ひとりがアドルフを好きでいたい」と言ったんだ。

 その日を堺に、俺たちは恋人という関係に変わった。

 勿論男同士だから跡継ぎ問題とかも出てきて、騎士団長の親父さんに別れろと言われたり、ユリウスも知らない婚約者が登場したりとそりゃあ色んな妨害があった。

 でもさ、障害があればあるほど愛ってやつは燃え上がるだろ。

 だから俺とユリウスは大恋愛の末、男同士で結婚したんだ。

 ユリウスが家を勘当されたので、俺たちは別の町に行くことになった。

 ユリウスは傭兵として活動し、俺はやっぱり治療院で癒やす日々を送ったけど、毎日幸せだった。

 ユリウスが魔物に襲われて意識不明の重体になるまでは。

 俺たちの愛の巣に運ばれてきたユリウスは、魔物の毒に侵されていた。治癒方法は、毒が消えるまで対象物の時間を停止すること。

 だから俺はうろ覚えの時間停止の魔法をユリウスにかけ続けることにした。

 気がつけば俺はいいおっさん。一向に起きないユリウスは若々しい姿のまま。

 こいつが目を覚まして俺を見ても、もう「僕の妖精」なんて言ってくれないんだろうな。

 自嘲しつつユリウスの顔を覗き込むと、瞼がぴくりと動く。

 固唾を呑んで見守ってると、やがてユリウスの焦点が俺を捉えた。

「僕の妖精……!」

 ……こんなジジイになってもそれかよ。

 泣き笑いしたユリウスに、俺も同じ表情を浮かべた。

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