第2章 波の変化

実は、昔、俺はこいつのことが好きだった。

別に男が好きだという訳では無い。

天野 康介。お前だから好きになったんだ。

初恋は天野 康介。

それから好きな人は作っていない。


「ねぇ、ゆうくん。引っ越しちゃうの?」

「そうだよ、」

「どうして?まだ遊びたいよ。」

「ごめんね。またね。」

そう言って公園を後にした。康介は追っては来なかった。

最後に思いを伝えようか最後まで迷った。

でも、『またね』と言ってしまった。

『また』があるのなら、思いは心の内に潜めておいた方がいいと子供ながらに思った。

そんな事もあったなーと思いながら窓から見える青空を見つめていた。

「ねぇ、侑李君。」

「ん?」

「ここら辺案内してくれない?」

「まぁいいけど」

「いつ暇?」

「いつでも暇」

「友達いないの?」

「失礼な奴だな」

そう言うとふはっと笑い出した。

いつもは何も無い放課後だけど、少し楽しみになったのは俺だけの秘密。

◆◆◆

帰りのHRが終わった。

「じゃあ行くかー」

「楽しみすぎるなー」

にしても今日は暑すぎる。

まだ7月だと言うのに、この暑さ。殺す気なのだろうか。

地球温暖化と言われているこの世の中。

だとしても進みすぎじゃないか?と日々思う。

「うーわ暑っつい」

「そうだなーとりあえず電車乗るかー」

その前に飲み物でも買おうかなと自販機の前に立った。

「押せよ」

「え、いいの?」

「まあな。今日だけだぞ?」

「やったー」

康介はお茶。俺は水にした。ちなみに特に理由は無い。

それから、電車が割とすぐに来た。

電車にはあまり人は乗っていなかった。

だから、席には座れた。

電車の椅子は割と狭めだから体が密着していて少しドキドキした。

乙女か。と自分でツッコミを入れた。


それから駅近くのアイス屋さんへ向かった。

『何があるかなー?』

とワクワクしながらメニューを調べていた。

そうゆうところほんとに可愛い。

「あ、これ美味しそうじゃない?」と言っては「あーこっちも美味しそう」

とずっとひとりで話していた。

俺は空気なのかと思ったりもしたが、楽しそうにしてるので良しとした。

「何にしたか決まったの?」

「今ね、ふたつで悩んでるんだけど、店ついたら気分で決める。」

「て言っても、もう着いちゃったけど?」

「大丈夫任せて。」

何が大丈夫なのかも、何を任せたらいいのかも全く分からなかった。

「…どうしよう。」

「全然大丈夫じゃないじゃん。」

「だって全部美味しそうだから」

「はー、どれで悩んでんの?」

「チョコとあまおうってやつ」

「なるほどね、じゃあそれ2つください。」

「え、いいの?」

「だって迷ってるんでしょ?シェアしたらいいじゃん?」

「ありがとう。」

「いーえ。」

シェアして食べようとかって言っちゃったけど、そうゆうの無理だったりしたかな。

やばい、後悔してきた。

「お待たせしました。チョコとあまおうです。」

「じゃあ、先どっちから食べたい?」

「じゃああまおうがいいな。」

「ん、はいどうぞ」

「ありがとう。」

「ねぇ、もしかして侑李君ってモテる?」

「は?」

「いや、だってさっきのかっこよすぎたよ。流石に惚れちゃうって」

「あ、そうか?」

「うん、そうだよ。」

「ありが…アイス溶けてない?」

「早く食べなきゃ」

犬のようにアイスを食べているのはとても愛おしいと感じた。

「あまおう食べる?」

「え、食べる」

「はい、あーん」

「あー、ん美味い。」

ナチュラルあーんしちゃったけど?これ大丈夫?

召されないかな…

「てかさ、侑李って背高いよねー、いくつあんの?」

「180くらいじゃない?」

「いいなー、俺172だった。」

「いいじゃん、可愛くて」

「可愛い?」

あ、つい心の声が出てしまったようだ。

「まあ、可愛い系じゃん?」

「えー、ちょっと嫌だな」

「なんでよ、個性じゃん」

「かっこよくありたかったー」

そう言って頬を膨らませるあたり、可愛いと思う。

「次どこ行く?」

「ちょっと遠く行かない?」

「え、どこどこ?」

「海、行かない?」

そう俺が言うと首を縦に振ってくれた。


「うわー綺麗だなー」

「ここはさ、現実から逃げ出したい時によく来るんだ。自分の家から遠いし、いい場所にあるからさ。」

「分かる、心が浄化されるよね。」

「俺は波が好きなんだ。波の音。」

「特殊なんだね。」

「いいじゃん、波の音」

「うん、いいね。」

そう言って海にある鳥居を見ながら、時間がどんどん過ぎていった。

他愛もない話がこんなにも楽しいと思ったのは初めてだった。

それは多分、相手が康介だったからだ。

「なぁ、俺の事好きにならないか?」

「え?」

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