妖精と少年、村を守る

ムネミツ

妖精と少年、村を守る

 「ほれ! スカッシュよ、鍔迫り合いになったらどうする?」

 「下がって避けてから、反撃に行きます!」


 晴れた昼時の空の下、森の中の開けた草原。

 白いチュニックに黒いズボンを着た短い茶髪の少年スカッシュと緑の服を纏い褐色で小柄だが逞しい白髪のドワーフの老人が、木剣を打ち合い剣の稽古をしている。


 「スカッシュ~♪ 頑張るカボ~♪」

 「ドワーフ爺さんも頑張れ~♪」

 「さあ、どっちが勝つかな? 掛け金は帽子に入れてくれ♪」


 外野で二人を応援するのは、カボチャの妖精ジャック・オー・ランタン。

 そして、三十センチほどの背中に虫の羽の生えた少女の妖精ピクシー。

 二人の妖精の傍で、同じく三十センチほどの老人男性の妖精ブラウニーが賭けを始める。


 「下がったからと言って追撃が来ぬとは限らんぞ!」

 「はい! とりゃ~っ!」


 ドワーフの追撃に合わせるようにスカッシュも前に出て打ち込んだ結果、スカッシュの木剣が先にドワーフの小手に当たった。


 「うむ、一本じゃな♪」

 「やった、初めて取れた♪」


 ドワーフから一本を取れて喜ぶスカッシュ。


 外野の妖精達も盛りあがった。


 「さあ、剣の次はレスリングにとボクシングじゃ♪」

 「はい、ドワーフ先生♪」


 剣が終われば、素手での戦いの稽古。

 その次は弓や馬、スカッシュは妖精達に様々な訓練を受けた。


 夕方になり、ジャック・オー・ランタンと一緒に野道を歩き家路に向かう。


 「今日も楽しかった、ジャックも応援ありがとう♪」

 「良いって事よ、お前には立派な妖精騎士になってもらわないとな♪」

 「うん、妖精騎士いなって、森と村を守りたい♪」


 カボチャ妖精のジャックと語り合うスカッシュ。

 彼には妖精使いフェアリーテーマ―の素質があった。

 妖精達はスカッシュを愛し、彼がいるから村に悪さをする事はなかった。

 スカッシュ自身も妖精は悪戯をしたりすると親から教わった。

 しかし、村長である父はスカッシュが妖精と村の間を取り持つならと交流を許していた。


 農村の中で唯一塀で囲まれた広めの家にスカッシュが戻ると、両親と祖母が出迎えてくれた。


 「お帰りスカッシュ、楽しかったか?」

 「うん、ドワーフ先生から剣で一本取れたよ♪」

 「そうか、あの爺さん俺には厳しかったがなあ」

 「そうねえ、あなたも子供の頃は鍛えらえたもんね」

 「そうそう、ドワーフ爺さんにぶたれたって泣いてたねえ♪」

 「おいおい、お前も義母さんも勘弁してくれ俺の威厳がなくなる!」


 背が高く逞しい村長である父、太めだが愛らしい顔立ちの母。

 母に似て太めだが、面白い祖母。

 壁に掛かった剣と盾、居間の隅に飾られた銀の鎧と兜。

 父が騎士として戦っていた頃の品を食卓に座りながら見回すスカッシュ。

 大人になったら、父の武具を引き継いで妖精騎士になる。

 そんな自分を夢みつつ、スカッシュは一家団欒を楽しんだ。


 「何か、森でゴブリンを見かけるようになったな?」

 「俺は裏庭でコボルトを見た! 何かヤバいぞ?」


 ある日の朝、スカッシュがジャックと一緒に森へ行こうとすると森の入り口近くで木こりのベックと農夫ボブの二人が話していた。


 「お、スカッシュとジャック? 森へ行くのか?」

 「気を付けろよ、ゴブリンが出て来てるからな」

 「はい、ありがとうございます」

 「ゴブリン? ヤバいカボ!」


 大人二人の忠告に礼を言うスカッシュ。

 ジャックは戦慄した。


 「親父さんの所に相談に行くよ、お前も妖精達に頼んでみてくれ」

 「そうだ待ってろ、ドワーフ爺さん達に差し入れだ」


 ボブは急いで傍にある家に戻ると、酒の瓶と林檎とパンの入ったバスケットを持って来てスカッシュに持たせた。


 「流石は根回しのボブ、妖精達もただ働きはしないだろうからな♪」

 「頼んだぞ、スカッシュ!」

 「はい、わかりました!」


 スカッシュはバスケットを受け取ると森へと急いだ。

 ジャックも空を飛び、スカッシュに追従した。


 「ふむ、それは厄介じゃのう」


 ドワーフ爺さんが唸る。


 「ゴブリン? コボルト? 最悪ね!」


 ピクシーは憤る。


 「ヤバいよ、人間だけの問題じゃねえ!」


 ブラウニーは慌てた。


 森の中にある木々に囲まれた広間、妖精達の集会場だ。

 差し入れのワインや林檎を妖精達が飲み食いしながら語り合う。


 「ふむ、ならば我らも動かねばなりませんなドワーフ卿?」


 髭面の貴公子の首を脇に抱えた黒い鎧の騎士、デュラハンも唸る。


 「まあ大変、スカッシュにも武具を仕立てないと!」


 流れる水の髪を持つ白いドレスの女性、湖の妖精はニンフが叫ぶ。


 「そうだ、人間どもの為じゃねえ! 可愛いスカッシュの為に立ち上がる時だ!」

 「「スカッシュの為に!」」


 妖精達が唱和する。


 「皆、ありがとう♪」


 スカッシュは、妖精達の協力を取り付ける事に成功した。


 スカッシュについて行く形で、ドワーフにデュラハンにブラウニーだけでなく服を着てブーツを履き帯剣した黒猫のケットシーやもと妖精達が村へと入る。


 「スカッシュだ、妖精達を連れて来てくれたぞ!」

 「良し、俺達もやるぞ!」


 農夫のボブは大鎌を、木こりのベックは斧をと武装してスカッシュの家の前に集う。


 「皆よく来てくれた、スカッシュは妖精達を連れて来てくれてありがとう」


 騎士の姿になったスカッシュの父が皆の前で演説する。


 普段なら昼飯時、だがこれから起こる戦いに闘志を燃やしていた。


 「伝令~~~! 街道の方にゴブリン達が現れたわ~!」


 ピクシーが飛んで来て叫ぶ。


 「良し、人と妖精が共にクラスこの村を皆で守ろう!」

 「「オ~~~!」」


 スカッシュの父の声に応じる皆、村の防衛戦が始まった!


 「よし、スカッシュの鎧に俺はなるぜ!」

 「うん、ジャックはお願い!」


 ジャックはスカッシュと一体化すると、スカッシュは緑色のカボチャの鎧兜を纏った騎士へと姿を変えた。

 ニンフがスカッシュに、剣と盾を渡して装備させると小さいケルピーが現れてスカッシュを乗せた。


 妖精と村人の連合軍は街道へと出陣すると、緑色の小鬼のゴブリンと灰色の野犬人間のコボルトの群れがこん棒や剣で武装して突っ込んで来た。


 連合軍とゴブリン達の戦いは激しかった。

 元騎士である村長は雄叫びを上げて勇敢に剣を振るいコボルトたちを切り伏せる。


 「流石お父さん、僕も負けないぞ!」

 「ウギャ~~!」


 ジャックと一体化したスカッシュも、盾で攻撃を受け剣で切って反撃しゴブリンを倒す。


 農夫も木こりもドワーフも、皆が必死に戦いモンスター達を全滅させる事に成功した。


 「よ~~し! 我々の勝利だ~♪」

 「「万歳~~っ!」」


 皆で勝利を喜び、村へと凱旋する。


 待っていたのは、ピクシーやニンフに村の女達が出迎える。


 「お帰りなさい、宴の用意はできてるよ♪」


 スカッシュの祖母が笑いながら男達に叫ぶ。

 人と妖精の連合軍の勝利の宴は三日続いた。


 妖精騎士、スカッシュ・グリーンパンプキン卿の幼少期の物語である。


                       妖精と少年、村を守る・完

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