第3話 愛のない恋を恋と言えるの?

俺…春風晴樹はるかぜはるきは、ベットにダイブし、乱雑に置かれている大量の枕のうちの1つに顔を埋めた


ナンパした女子に告白された…


「はぁ-…」


口一杯のため息を枕に吐き出す。自分のことで悩んだのなんて、いつぶりだろうか


俺は身体を回転させて、天井を見上げる。そして、あの告白された時のことを思い出す


◇◇◇◇


「私と…付き合ってください」


雪見さんは、無表情でそう言いきってみせた


なんの感情もない、愛の告白とは程遠い「告白」がカラオケルームにこだまする


「…えっ?」


生まれて初めて、唖然とした

生まれて初めて、耳を疑った

生まれて初めて、告白された


初対面の、それもナンパした子から、なんの脈絡もなくいきなり…


俺が返事をせずに唖然としていると、雪見さんは再度、その言葉を口にした


「…付き合ってください」


返事を求めるように、雪見さんは見つめてくる。こんなことになるなんて。はぁ…



元々、俺自身自覚していた。自分がどういう人間か

そして、今まではそれを良しとしてきた


シェイクスピアの舞台の1つ『お気に召すまま』のセリフに「この世は舞台 人は役者」というものがある


セリフの通り、この世界は舞台で、人は誰しも役を演じている…という意味のセリフだ


そんな世界で、俺は自分の役を放棄して、自分の介入しないその舞台を観測し続けたいと思っている


要は、誰かの物語を見るのは好きだが、自分がしたい訳ではなく、ただただ見たいだけ…というこだ


今までは、自分が主題とならないように立ち回ってきた。この世界が、俺のいない物語であってほしいのだ


しかし今日、俺は読者から役者へと引き上げられてしまった。さて、どうするか…


どう返せばいい…自分はどう思っているんだ

俺は自分の中で自問自答をする


『何事も経験なんですよ…』


たどり着いたのは、俺にとっての師匠のような人が残してくれた言葉の1つ


人殺しの気持ちは、人殺しにしか分からないように、恋する気持ちは、恋をしないと分からない


けど、経験していないことを経験したかのように書かなければいけないのが作家というもの


いや…まって

ダメだ。この気持ちは不純過ぎる…


、そこに愛はない


「ごめん」


自分の人でなしな部分にたどり着くと、俺は自然と返事を口にしていた


「俺はきっと…愛のある恋はできない」


「そう」


雪見さんは、まったく悲しくなさそうだった。一時の気の迷いだったのだろうか…


そう思い安心したタイミングで、雪見さんから更なる衝撃発言が飛び出てきた…


「別に、愛がなくてもいいよ」


本日2回目の絶句。それも連続で…

思考が追い付かない…。そんな俺の心理状態は無視して、雪見さんは話を続けていく


「私は…恋がしたいだけだから。あなたに愛されたい訳じゃない」


…絶句はした。したが…俺は彼女が何したいのかが理解できている。俺も、どちらかと言えばそちら側の人間だからだ


愛のない恋をする…

愛が欲しいわけじゃなくて、ただ恋をしたいだけ…


理解はできるが共感はできない…

そもそも、俺の本質は…俺の本心は…あれ?


「もう一度言うね…私と、付き合ってください」


そう言って、彼女は手を差しのべてきた。これを握れば、晴れて彼女と恋人になれて…恋ができる


彼女は『愛がなくともかまわない』と言った。それは、言い換えれば…■■■■■■■■■ということ


なら…


「これから…お願いします」


俺は彼女の手を取った…彼女は無表情のまま「うん」と答える。そんな彼女に、恋のようなトキメキを感じられずに


◇◇◇◇


俺が彼女に近づいた理由は、あるいみ下心よりも酷い心無しの発想からきているものだった


それは好奇心。彼女の白も黒もない虚無の表情に、俺は「助けたい」でも「可哀想」でもなく「面白い」と感じた。そして、ナンパをした


そして、俺は彼女から告白されて、無事『愛を求められない恋人』になることができた


これはよくない…だって、俺はあくまでも第3者として物語を楽しみたいのだ


自分が物語の主人公になりたい訳じゃない。苦悩したくないし、責任とか怖いし、モテたいとかも思わない。結局、主人公の親友ポジとかが最高というわけだ


今回も、彼女が誰かに救われる物語を、1サブキャラとして近くて遠い距離から読んでいたかった


クソ野郎の思考回路だって分かっているが、人間大抵こんなものだ。俺は自分の醜い部分を理解した上で許容しているに過ぎない


俺はクソ野郎だ。他人の苦悩と絶望と幸福と成功を安全地帯から見守って楽しんでいるような奴だ。たまにチャチャを入れるが、主人公になんてなってやらない


だけど…


「俺は…あの手を取った」


『新しいことに挑戦した』なんて、カッコいいものではない。フィクションじゃない恋なんて、きっと大したことないに決まっているのに…


「恋する気持ちは、恋をしないと分からない…か」


師匠みたいな人からの言葉と、この思考が俺の背中を押して彼女の主人公になる選択をした。人の恋を知るために…


「とりあえず、恋愛ラノベでも読み漁るかな」


選んだ道は帰られないし、ならば全力でその道を楽しみ、多くを感じて糧にする。後悔するのは未来の話し


それに、楽しそうじゃないか。自分があんなシチュエーションやこんなシチュエーションでどんなことを感じるのかを考えるのは


案外なにも感じないのか、2次元の主人公みたいに意識してしまうのか。もしかしたら、現実では違うと思っていたことが、本当にそうだったりして


「ふふっ、切り替え上手の晴樹さんをなめんなよ。自分自身すら俯瞰して、第3者視点で楽しんでやるぜ」


そう呟いて、俺はベットから降りて本棚へと向かっていって、その日は徹夜で本を読み漁った

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