第4話 重要なのは心情であって会話じゃない
奇跡と付き合ってから1週間、俺たちは恋人のようなことを手探りにやってみて、恋をしてみようと模索していた
今日だって、俺は奇跡と一緒に下校した。下校デートというものだ
まあ、寄り道とかはせずにまっすぐ帰宅したから、デートとは言わないだろうけど
ちなみに下校中の会話の内容がこちら
「…」
「…」
「…」
「…」
「……」
「じゃあ、私はこっちだから」
「おう、また明日な」
以上、付き合ってから続けている下校デートでの主な会話内容でした。まじて終わってる
「はぁー」と大きくため息を吐きつつ、俺は自室の机へとうつ伏せになる。その机には、俺の初めての恋人のためのノートが置かれていた
一応、俺は趣味『人間観察』兼『人生観察』というだけあってその人の
そして、物語を紡ぐ上でもっとも重要なのはプロットだ。プロットという地図がなければ、キャラクターが進むべき方向が分からなくなる
そんなプロットを作るには、とりあえず彼女というキャラクターを文字に起こし、俺の人脈にあるキャラクターと結びつけるのが効果的…
効果的…なんだけどなぁ
俺はうつ伏せから起き上がり、真っ白なノートに目を向ける。そう、これが雪見奇跡という人物のキャラクターなのだ
空白、虚無、無色…あらゆる言動に意味を感じられず、本人すら自身に意識を向けることが少ない
いつも無表情…というか、学校では俺以外に彼女を意識している生徒がほとんどいなかった
存在感が皆無で性格も虚無的、どこにでも馴染める俺の白色とも違う…無色
俺と同じ白色なら、色を付けるだけでなんとかなるけど、彼女の場合はキャンバスそのものが存在しない…だから、まずはそこから
彼女自身に自分という存在を理解させる。そうしないと、どうあっても彼女はこのまま
「彼女を自分の人生へと引き戻す」
さて、第一目標は決まったけど、その方法は一切考え付かない。参考にできるような物語も数が少ない
まっ、やりがいか。やりがい、やりがい。うん、やりがいやりがい…やりがいだね
「はぁー…」
再度のため息。そもそも、俺は努力の才能は無いタイプの課題ブッチ族なのに、頑張ろうとする選択は間違っている気がした
急ぐ理由もないし、これは俺の趣味と並立可能なことだからゆっくりやっていくことにしよう
けど、彼女と俺の性格上、絶対に行動を起こさなきゃ一生なにも起こらない。こと奇跡に関しては取っ掛かりが見つかることは無いだろうし
「どうするかー…どうするか…」
俺は机に置かれているスマホを手に取り、キャラクターいちら…連絡先をパーっと確認する
「うーん…」
使えそうなキャラは見つからない。打開策も思い付かない。師匠ならどうするかな…どうもしないんだろうな、あの人は
俺はスマホの裏側に目を向ける。今使っているスマホケースは師匠から貰ったもの。1本ペンが収用できる手帳型のスマホケース…
『今の時代、作家の武器はペンじゃなくてこっちだからね。作家=万年筆の時代は終わってるんですよ』
そう言って彼女から渡されたプレゼントの1つ。今にして思えば、関わりのほとんど無い男とここまで仲良くなるとか、あの人もだいぶ変人だな
まあ、初めて出会ったときも高校をサボってたし、怖いぐらいフリーダムで行動力あるし、師匠なんて思ってるけど『あり方』は全然違う
でも、困ったら真っ先に頭に浮かんでしまう。今だって、もし彼女が生きていたら平然と頼って、平然と解決していたことだろう
さて、そろそろ眠くなってきた
机のデジタル時計は午前4時を示していた。午前3時にやってた作業が一段落したので、眠くなるまで趣味についてを考えていた
そして、眠くなった。これ以上、起きている意味はない寝よう、そうしよう、おおいずみ…おっと危ない
ベットにぽふってダイブ。4時まで稼働していた脳は思考停止の指示をすんなり受け入れ、すぐに俺は夢の世界へと潜っていった
◇◇◇◇
案の定、俺は寝る直前に思い浮かべていた人物との思い出を夢にみた。といっても、それはなんてことのない河川敷でのこと
あれは…なんてことない平日の昼間、中学をサボった俺は、何故か河川敷で座って川を眺めていた師匠を見つけて隣に座る
師匠は俺に見向きもせず、話しはじめる
「学校をサボるなんて、悪い学生さんですね」
「…制服で言われても、困るんですが?」
「なんか、いいんですよね、制服。別に学校には行く気しないだけど」
「それは…分かるかも」
その日も、俺はサボる気でいたが選んだ服装は制服だった。なんとなく、そうしていた
「役職の束縛ですね。こんな私でも『学生』の自覚はあったんですよね」
「この話し、前にもしませんでした?」
「したよ、でもいいじゃないですか。うわべの会話なんて、意味はないんですよ」
そんな、哲学的なよく分からない言葉を残して、彼女は黙って川を眺めはじめる。そして、しばらく無言の時間が続く
だけど、その時間が苦痛だとも空白だとも思わなかった。彼女と一緒にいると、何故か色々なことを考えてしまう
『うわべの会話なんて、意味はないんですよ』
『無意味な言葉』と『意味なき無言』なら、きっと後者のほうが有意義なのだと思う。そして、それがきっと今なんだ
暖かい陽光。冷たい風。ひんやりとした地面
制服で堂々とサボっている学生をチラ見する通行人。それを気にせず、目を閉じてルンルンとしている師匠
今流れている時間は、体面的には無駄な時間。だけど、これは心地よい時間だ。そしてそれは無駄じゃない
だって、本当に重要なのは自分がどう感じるかだ。重要なのは心情であって会話そのものではないのだ
師匠の言いたいことは、つまりこういうことだろう。また、新たな気付きを俺にくれた
「ねえ師匠」
「どうしましたー?」
「どれぐらいの時間が経ちました?」
「分からないですね。私、本以外は持ち歩かないので、スマホも時計も持ってません。近くに時計もないですし」
「あなた、これからの作家はスマホが武器だとか言ってなかったっけ?!」
「今の私は作家じゃなくて1サボり魔ですよ」
「締め切りから逃げてるの?」
「逃げてるんじゃなくてサボってるんですよ?」
「ほんとなんなんだこの人は…」
相変わらずフリーダムで責任なんてものを気にしない人間だ。抜けている変人だ
だけど、必要な時に必要な問いをくれる。意図的かは分からないけど
あの人の夢を見るときは、対面している問題の答えに関するものがほとんどだ。亡くなってからも、こうして夢で助けてくれる
重要なのは心情であって会話じゃない
今回の夢で、とくに印象に残ったフレーズはこれだ。つまり、今の問題はこれで解決だ
というか、当たり前だった。俺は、最初のキャラメイキングを終わらせていなかった
つまり、俺自身が心情を持っていなかった。彼女のキャラを作る前に、俺が自分を作る必要があった
彼女が誰でもないように、俺も今までは第3者にこだわっているあまり誰かであろうとすることはしてこなかった
何者でもない同士が関わっても、何にもならないなんて当たり前。まずは俺が何者になる必要がある。それから彼女に自我を与える
では、どうするか。まずは、この夢の内容を覚えておけることを願うところかな
灰色の君へのラブソング ワッフルEX @WaffleEX
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