妖精たちを誰と談義する

辺理可付加

『暑くて限界』

「あぁっつぅ〜!!」


 真夏の放課後、三軒茶屋さんげんぢゃや高校。

 一番ヶ瀬いちばんがせ天弓あゆみは花壇の縁に腰を下ろす。


「今日も40度超えるんだってねぇ」


 木陰で大汗かいているのは御香宮ごこうぐうはじめ。

 彼女は日光で熱くなり触れなくなったギターをケースに置く。


「誰だよ、『たまには外で練習しよう! 風に私たちのメロディを載せるんだ!』とか言い出したヤツ!」

「天弓ちゃんだよ。一番屋外練習不可能なドラムの天弓ちゃんが言い出したんだよ」


 一連の会話でお分かりと思うが。



 二人はインディーズ女子高生音楽グループ


『月極バンド』


 のメンバーなのである!



 ちなみにバンド名の由来は全員が『月極げっきょく駐車場』って勘違いしてたから。


 ちなみに残りのメンバー。

 ベースの高田馬場たかだのばばすずは遅刻の言い訳に


『妖精に学生証を盗られて追い掛けた』


 とのたまい生活指導。


 ボーカルの北大路きたおおじ御幸みゆきは昼休みに『ね◯ねるねるね』で右肩を脱臼、病院へ。


 この場には2人しかいない。


「妖精って、通用すると思ったのかなぁ」


 常識ではあり得ない発言だが。

 付き合いが長い天弓にインパクトはないらしい。



「はじめちゃんは『妖精』って言われたら何イメージする?」



「うーん、妖精」

「ゴブリン? ホブゴブリン? グリーンゴブリン?」

「何そのゴブリンへのこだわり。最後のは違うし」

「で、何ゴブリン?」

「ゴブリンじゃないよ! ティンカーベル?」

「ふーん」

「なんだそのリアクション」


 ちょっとイラッとするが、あの執拗な前振り。

 もしかしたら天弓はゴブリントークでゴブりたかったのかもしれない。


「天弓ちゃんはゴブリンなんだよね?」

「は? 人間だけど」

「そうじゃなくてイメージする妖精!」

「マーメイドかな」

「ゴブリンじゃないのかよ!」

「ナマ足魅惑って、何をもってマーメイドと判断したんだろうね?」

「『YO! SAY』じゃねぇか!」


 と思ったらこの始末。

 このバンド、ロクなヤツがいない。


「でも足だよ? 魚じゃないんだよ?」

「知らないよ!」

「何か!? 鱗で覆われとるんか!?」

「おいーす」

「あ、鈴ちゃん。助けて、また天弓ちゃんが」

「はぁ」

「それって魅力的な足かなぁ!? どうかなぁ!?」

「よう分からんが、



 半魚人かリザードマンなんだろ」



 T.◯.Revolution、半魚人だった。

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妖精たちを誰と談義する 辺理可付加 @chitose1129

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