第2話

 IT業界に入り新卒の頃は、エラーばかり出して、妖精が助け出してくれることもなかった。しかし、あれから五年の月日が流れ、私も業界内では中堅どころになってきた。

『通販売上ファイル作成の改修終わりました』


 後輩の鈴宮杏里すずみやあんりからチャットが届く。私は感謝を述べて、次のタスクを渡す。


『了解です。ピクシムにやってもらいます』

「ちゃんとチェックはしないとダメだよ? ピクシムだって100%じゃない」

『私の知る限り、ミスは0%っす。妖精さんすごい』


 仕方ないなぁと私は苦笑する。


 私も自分のPCで「ピクシム」を起動する。小さな妖精のアバターが現れる。この子がプログラムを作ってくれる。


 いまや開発は妖精がやってくれる時代だ。

 成田先輩が作り上げたプログラム自動作成ツール「ピクシム」はAIがこちらの提出した設計書に沿ってプログラムも書いてくれるし、バグも自動修正してくれる。私たちの開発能力向上のために添削なんかもしてくれるし、AI頼りにならないためのフィルタもかけられる。


 無事に完了すると幸せの鳥(終わりって意味の「トリ」にかけて作ったらしい)が画面に出てくる。


『あのトリの降臨の瞬間がたまんないですよね、終わったーって気になる。ゲームのクリアみたい』


 杏里は仕事中だというのに、チャットばかり。それでも開発は進むし、杏里のスキルは1,2年目の私よりはるかに高くなっているから「ピクシム」は本当にすごい。


 このツールを作って一儲けをした成田先輩はいまは海外で悠々自適に暮らしているらしい。何もかも完璧な先輩だが、結婚運だけはないらしく、パートナー探しの日々だけは終わらない、とこの間来たメールに書いてあった。いくら成田先輩の経験値をもってしても、幸せの青い鳥へと妖精が勝手に導いてくれることはないらしい。

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妖精がプログラムを直してくれる? 多田莉都 @rito_tada

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