妖精がプログラムを直してくれる?
多田莉都
第1話
「昨日のバグさぁ、今日、動かしたらちゃんと動いちゃったんだよね」
成田先輩の話の意味がわからず、私は首をひねる。
「え? バグが勝手に直ったってことですか?」
「そ。妖精が直してくれちゃったのかも」
「ようせい?」
頭の中で、要請、養成、陽性と漢字が浮かぶ。どれも適当には思えなかった。
「うん、フェアリーの妖精」
「え、そっちの妖精ですか?? え、あのファンタジーとかに出てきそうなほう?」
「そっちだって言ってるじゃん」
成田さんはケラケラと笑った。
今日の成田先輩は徹夜明けで、少し目の下に隈ができていて、メイクが少し荒いが正気には見える。
「そ、そんなことあるんですか……?」
「
IT業界に新卒で入社して三か月目、私は「妖精」の存在を知ることになる。
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プログラム未経験ながらITベンチャーの「AC-EX」に入社して三か月、簡単な研修を終えて、私は成田先輩が参画しているアパレル通販ウェブサイトの開発案件にアサインされた。
毎日、コンパイルすら通すのに苦労する私と違って、天才プログラマーと呼ばれる
そんな先輩でもバグが直らないときがあるが、まさかの妖精が直してくれると言う。
「まー、そのうち七海も妖精に直してもらえたりするからね」
「そのうち? 私はいま直してほしいんですけどね……妖精に嫌われてるんでしょうか」
私は今日もエラーに悩まされている。「そのうち」ではなくて「いま」がいい。
成田先輩は「うーん」と少し考え込んだあとにこう言った。
「まー、嫌われてるっていうか、七海の経験値がまだ足りないってことだよ」
「経験値? 経験積むと妖精が来るようになるんですか?」
まるでRPGみたいだ。私はいつのまにか、プログラムを妖精が直してくれる異世界転生にでも巻き込まれてしまったんだろうか?
「そうだねぇ。来る確率が上がるっていうか……」
「じゃ、私には、まだ無理だと……?」
「こんなヌルポ出してるぐらいだとねぇ……」
成田先輩がほんの数行を直しただけでプログラムはコンパイルが通った。基本的なレベルでエラーを出している私にはまだまだ妖精は来ないらしい。
あとになってからわかったことだが、妖精が直してくれるといっても、当然だが、妖精が現れて勝手に直しているわけではないことがわかった。
要は「IT業界あるある」らしかった。
「動かない機能が動いた」、「計算処理が正しくなった」、「検索速度が向上した」とパターンはいろいろだったが、開発者が想定していないのに直る現象が起きることを「妖精がやってくれた」と言うらしい。
実際は、ヒント句ををおまじないのように書いたり、ライブラリが読み込みなおされたり、再起動で邪魔なキャッシュが消えたりすることで「勝手に」直ったように見えるだけのことらしい。
ある程度、プログラムを書いていると、たまたま書いたあるコードが効果をもたらしたり、誰かがライブラリをアップデートすることで直ることも体験できる。まだ単純なエラーすら対応できていない私にはそんな偶然はやってこないという話だった。
そんな私だったが、時を重ね、経験値を積み、スキルアップすることで確かに勝手に直る体験もすることができた。
そして、予想すらしていなかった形で、私は別の妖精に出会うことになる。
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