第6話 夜の王都を征く者
いよいよ寮も消灯時間を迎え、脱走にはちょうどいい感じのタイミングがやってきた。
「さて、そろそろ始めますか」
今日王都を歩き回って手に入れた衣装に袖を通し、3件回って苦労して手に入れた手品師が使うような仮面をつける。
窓を開けると、夜風と共に雲一つ無い空に満月が輝いていた。
「天気も最高だね」
俺は窓枠に乗り、無限に広がる夜空へ向かって飛び出した。
***
「さっさとやっちまうぞ」
営業を終え、明かりの消えたとある宝石店に3人の男がやって来た。
「ああ、人の目が無いうちにな」
入り口のガラス製のドアを蹴破り、男たちはそそくさと店内へ入り込んだ。
「30秒で盗れるだけ盗れ!」
無造作に布袋を取り出し、鈍器で叩き割ったショーケースの中から宝石を詰め込んでいく。
「よし! ずらかるぞ!」
宣言通り30秒間盗みを限りを尽くした3人は足早にドアを割った部分から店を飛び出し夜の闇へと消えていった。
「手口は雑、計画も雑。成功したのは運が良かったからだな」
***
俺は宝石の入った布袋をぶら下げた3人組を建物を飛び移りながら追っていた。
いや、追っていたというより目的地までついて行ってたの方が正しいかな。
「よし、この辺でいいだろう」
3人組はしばらく走り、路地裏まで逃げてきた。一旦休憩するらしい。
身体強化の使えない一般人ならこの辺で疲れるのも当然か。
「はぁ、はぁ、ははっ、やってやったぜ」
「後は明日帰国すれば完璧だ。だが、宝石はすぐに売るんじゃねえぞ」
なるほど、盗むだけ盗んで祖国に逃げ帰るプランってことか。
惜しかったね。
***
「あ?」
1人の男が袋を持っていた右手に違和感を感じ、右手を見下ろした。
「な……無い。宝石を入れた袋が無い!」
「なんだと? 確かにさっきまで……」
「バカな! 一体何が起きてやがる!」
男は袋が突然持っていた袋が消えたことに怒りと少しの恐怖を抱いた。
「早く袋を探せ! 袋は生き物じゃねえんだ、すぐ近くにあるだろ」
「お、おい。お前らの袋も……」
「ん?」
「は?」
残り2人が持っていた袋も気づけば姿を消していた。
「な、何が起きてんだ……?」
3人の間には先ほどとは比べ物にならないほど肥大化した恐怖が渦巻いていた。
「探し物はここだ」
最初に袋を失くした男が打撃音と共に気絶し、その後ろから3人分の袋を持った男が現れた。
「誰だお前は!」
1人の男が殴りかかるが、いとも容易く受け止められ、首に強烈なチョップをくらい気絶した。
「ひ、ひいっ!」
もう1人の男は2人目が成す術なく気絶させられた時点で恐怖心が限界を超え、尻尾を巻いて逃げ出そうとした。
「私から逃げられると思っているのか?」
逃げ惑う男は後ろから右肩を強く掴まれた。それだけでまるで体が固定されたかのように全く逃げることができなくなってしまった。
「待ってくれ! 命だけは!」
命乞いをしようと後ろへ振り返るとその男は手品師のような仮面をつけ、スタイリッシュな雰囲気を崩さない程度の金の装飾が施されたスーツを着用していた。
「私はお前のように下賎な人間の血で手を汚すつもりはない」
仮面の男は右肩から手を離すと、黒い手袋に包まれた拳を握りしめて振り向いた男の顔面へと放った。
「ぶがあああっ!?」
拳をもろに食らった男はふっ飛ばされて気絶した。これで盗人3人組は全滅した。
「これは私が返しておいてやろう」
こうして男の──ラクスの真の強者としての活動は幕を開けた。
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