第5話 真の強者らしい衣装が欲しい
俺が生まれた家、ハーミット家は貿易会社、リヴァンデル商会を代々運営してきた。
その会社を運営しているからか、家である屋敷も港町リヴァンデルに位置している。
でも、このリヴァンデル、結構田舎である。
いや、田舎と言ったら少し語弊が生まれるだろうか。それなりに人は住んでいるし、産業だって漁業、貿易・運輸業など多種多様なものがある。
それでもやっぱり、色々とレベルの高いものが凝縮されている王都に比べれば足元にも及ばない。
だから俺はこれほどに王都での生活を楽しみにしていた。
「でも、やるべきことはちゃんとやっておかないとね」
今日王都を歩く理由は観光だけではない。
裏で活動する時のための衣装を用意するという目的もある。
真の強者として適切な立ち振舞いをするためにはラフな私服では格好がつかないからそれ相応の衣装を用意する必要がある。
「とりあえず服屋とか回ってみようかな」
適当に歩き回り、とりあえずの昼食としてサンドイッチを2つ、持ち帰りで購入した。
「都会でも味は変わらないんだね」
サンドイッチを食べ歩きながら王都を散策し、ようやく1件目の服屋を見つけた。
もっといっぱいあると思ってたんだけど、買い被りすぎたか、もしくは俺の探し方が悪かったか。
「いらっしゃいませ」
店内に入るや否や、大人な雰囲気を放つ黒髪の女性店員が出迎えてくれた。いかにもしごできって感じの立ち振舞いをしている。
俺も一目見るだけで強者だと思わせるような立ち振舞いができるようにならないとね。
「どのような衣服をお探しでしょうか」
「とにかくかっこいいやつを」
自分で言っておきながらも抽象的すぎて自分で驚いた。この人が仕事できそうに見えたからちょっと無理な要求しちゃったかな。
「はい、とにかくかっこいいやつですね! おまかせください!」
自信満々な様子で奥にある大量の服がハンガーに掛かっているところ前まで俺を連れて来た。
この人は仕事ができるというより、仕事に情熱がありすぎてめんどくさいタイプかもしれない。俺はそんなことを薄々察し始めていた。
「お客様! この様なタイプはいかがいでしょうか!」
そう言って店員が差し出してきたのはちょっと軍服っぽい感じの黒い衣服だった。
確かにかっこいいけど、俺が求めているのはこういうのではない。
「確かに良いんですけど……なんかこう……もうちょっとスタイリッシュな感じのはありませんかね」
そんな普通の店員からしてみれば迷惑極まりない要望にも、この店員は真摯に向き合ってくれている。
「もう少しスタイリッシュに、ですか……。でしたらこういうのはいかがでしょうか」
そう言って次に出してきたのはちょっとした装飾が施されたおしゃれなスーツだった。
うん、これすごくいいかも。
「それにします」
「お買い上げありがとうございます」
俺は店のロゴが入った紙袋をぶら下げ、快活に退店した。
「いや~、いい買い物ができた。後は顔を隠せる仮面みたいなのがあるといいんだけどね」
残ったもう1つのサンドイッチを口に運びながら仮面とか売ってそうな店をしばらく探すことにした。
「うーん、ダメか」
1件目はハズレ。
「……ちょっと微妙かな」
2件目もハズレ。
「おっ」
3件目のそれっぽい店でようやく良さそうな仮面を見つけた。
俺はいっそう輝いて見えた、手品師がショーの時に使っているような仮面を手に取りレジへと向かった。
よし、これで準備完了。とりあえず今日の夜にでもこの格好で王都を見て回ろうかな。
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