第4話 今日から王都暮らし!

 今日から俺は我が家を離れ、このレグナス王国の王都グランヴェリスへと向かう。


「うーん、1人で馬車に乗るって暇だね」


 いつものように魔力を練り、空気椅子をし続けるくらいしかやることがない。


 しかし、この環境での空気椅子は結構ハードだ。馬車は細かな揺れを繰り返し、バランスを維持するだけでもかなりの負荷がかかる。


 体幹は剣を振るう上ではすごく重要なことだからむしろ助かるけど。



 いよいよ目的地である王都に到着し、馬車が停止した。


 胸が高鳴る。これまでは旅行くらいでしか来ることができなかった王都で学生として暮らすことができる。


 王都に入ってからは馬車の窓にまさに都会と言える町並みが写し出されていた。学園の色々が終わったら少し歩き回ってみようかな。


「ありがとうございました」


 御者に礼を言い、体を伸ばして都会の空気を思い切り吸ってみる。


「ああ~、長旅の疲れもで吹っ飛ぶね」 


 でも今は楽しみにする気持ちを抑え、入学式の会場である学園へと歩く。 


「おはようございます」


 後ろから少し足早に来た女性に挨拶され、振り返るとその声の正体は学園の制服に身を包んだ学生だった。


「おはようございます。あなたも入学式に?」


「ええ、そうなんです。あなたがよければ一緒に行きませんか?」


「いいですよ」

 

 同じ学園に通うこと以外接点のない異性と同行したがる理由はよく分からないけど、多分緊張を和らげるとかそういう理由なのかな。


 もしそうだったら軽い会話くらいはしてあげてた方がいいかな。


「そういえばあなた、お名前は?」


「私はシャーロット・オルレアン。良ければあなたの名前も聞かせていただけますか?」


 オルレアン、ね。シャーロットさんは多分、王国直属の組織である魔導騎士団の団長を代々勤めてきたオルレアン家のご令嬢だ。


「ラクス・ハーミットです」


「ハーミット……。あの貿易会社を営んでいるハーミット家の?」


「こ存知なんですね。そこまで有名でもないので少し意外です」


「でも、なぜそのような家系の令息であるあなたが魔法学園に?」


「たまたまちょっと魔法の才能があっただけですよ。両親もOKしてくれてますし」


「ずいぶん寛容なご両親なんですね」


「ええ、両親には感謝していますよ」


 兄に大きな期待を寄せているというのもあると思うけど、正直、貴族の親が家業と全く別の道に進むことを快諾してくれるとは思わなかった。


 そして兄はむしろ俺の進路を応援してくれている。


 兄としては俺と後継ぎの座を巡って競争する必要もなくなり、俺からの好感度もアップして一石二鳥なのだろう。


「もう学園が見えてきましたね。会話に夢中になっていると時間が過ぎるのはあっという間です」


「ですね」



 シャーロットさんにも友達がいると思うから適当なタイミングでまた1人に戻り、入学式が行われる大講堂に用意された席へとついた。


 ちなみに席は自由なので適当に後ろの方の席を選んだ。



 新入生が全員着席してしばらく、入学式が始まり、真面目に聞いている人が存在するのか分からない教師たちからの話が始まった。


 俺もどうでもいいからここは適当に聞き流しておく。


 結局時間を食うだけのつまらない話ばかりだった入学式が終わり、次は教師や学園のことが色々話された。


 ここは少し興味があるので耳を傾けるくらいはしておく。


 明日に実技試験が行われ、その試験の結果によってクラスが決定されるらしい。


 自分の真の力は隠すにしても、才能の限界って感じのある程度優秀と言えるくらいのラインは維持したい。


 そこは周りの実力に合わせて上手く調整するとしよう。


 それなりに長かったけど興味を持って聞いていたので入学式の話のように苦痛には思わなかった。


 そして次は寮の説明へと移る。


 ここは自分の私生活に直結する重要なことなので、一言一句聞き逃すことのないようにする。


 寮は学園の近くにあり、学園のレベルが高いだけあってしっかり1人につき1部屋が与えられている。


 夜に脱走して色々するのが楽になるからそこはとても助かる。


 今日の学園での日程はここまでで、これからは自由時間。早速自分の帰る場所へとなる寮へ行ったり、文明の色に溢れた王都を歩き回ることもできる。


 寮はどうせ後で必ず向かうことになるので、俺は王都を観光することにしよう。


 そう思い、俺は街へと足を踏み出した。


 

 

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