第3話 アイアムドラゴンスレイヤー
「ガオオオオ!」
バハムートが先手を取り、ラクスに向かって黒炎のブレスを放った。
「小手調べの一撃ってことね」
ラクスは何の迷いもなく迫り来る黒炎へと正面から突っ込んだ。
しかし、ラクスはその身を焼かれることなく無傷で通り抜けた。
「くだらないよ」
ラクスの魔力を塊にした剣がバハムートの首を捉えた。
「おっと」
しかし、鋼すら比較対象にならないほど硬い漆黒の鱗によってその一撃は無に帰す。
「くだらないのは俺もか」
その隙をみすみす見逃すほどバハムートは甘くない。
暴風を巻き起こすほどの力と速度で前足を振るい、ラクスを引き裂こうとする。
ガキンッ!
妖しい紫の光を放つ前足の爪と赤紫の剣が激しく衝突し、その衝撃でバハムートの鎮座する岩が粉々に崩れ去った。
「ようやくやる気になったっぽいね」
見たものにトラウマを植え付けるような禍々しい漆黒の翼を広げ、バハムートが舞い上がる。
舞台は空中へと移り、バハムートとラクスは向き合う。
そして一閃、二閃。
両者の振るう攻撃は激しく交わり、世界を振るわせる。
「まだあの攻撃はしてこないんだ。随分俺のこと見下してるみたいだけど」
その言葉に呼応するかのように、バハムートの行動が突然変化した。
「……今度は何をしてくる?」
バハムートが激しく翼を羽ばたかせ、上へ上へと向かう上昇気流を作り出した。
「上昇気流? 雨でも降らせるつもりかな。……いや、そんなわけないか」
ラクスは次にバハムートが取る行動を予見し、そして次の瞬間にはその通りのことが起こった。
バハムートはその漆黒の翼を広げたまま、上昇気流を利用してぐんぐん急上昇し、十分な高度を確保した時点で滑空へと体勢を切り替えた。
「まさか自分で起こした上昇気流でサーマルソアリングとは、流石、『破滅の黒龍』の二つ名を持つだけはあるね」
天高くからその目でラクスを捕捉したバハムートは、自身の体を覆う鎧となる鱗を弾丸のように乱射していく。
鋭い鱗は空を裂き、不気味な不協和音を奏でる。そして地に突き刺ささるたび、爆発が起きたような爪痕を刻む。
「来た来た。この攻撃を突破して俺はバハムートを完全攻略して見せる」
この鱗を放ち攻撃に転用する行動は龍種の中でもバハムートに分類される龍のみが行う固有の行動である。
硬く素早い、食らえば即死もありえる鱗の嵐をラクスはまるで360度全てが見えているかのごとく、必要最低限の動きで難なく回避している。
「ふふははは、あーっはっはっはっ! ついに俺はバハムートをも超越する存在になった!」
高揚したの高笑いの直後、バハムートの視界から突然ラクスの姿が消えた。
「まだまだ真の強者には遠いけどね」
後ろからの冷静なラクスの声に反応し、バハムートがそちらを振り向こうとした。
「
バハムートですら視認できないほどの速度でその一太刀は振るわれた。
スパァッと清々しいほどの音を奏でながら既に再生した漆黒の鱗に守られる巨体は斜めに両断される。
「ギャオオオオ!」
けたたましい断末魔を上げながら2つに分かれたその巨体はゆっくりと落下していく。
「本当は完全な無音で今の一撃を出したいんだけどね」
***
剣術を学び初めて6年、気づけば俺は剣に魅了されていた。
剣は魔法での戦闘と比較すると、よりスタイリッシュで無駄がない。俺が求める真の強者の姿により近づけるのはこっちな気がする。
「バハムートの死骸は証拠隠滅のために消しておかないとね」
ここからは単純作業。すっかり絶命したバハムートの傍へ寄り、じっくりと死骸を焼却していく。死んでも体は頑丈なままだから証拠隠滅には結構苦労する。
でも、これで俺が成体のバハムート以上の力を手に入れたことが確認できた。
「……せっかくだし、記念として貰っていこうかな」
紫色に輝く爪の一部を剣で切り取って採取し、それをポケットに突っ込んだ。
今なら被害者の体の一部を戦利品として持って帰る殺人鬼の気持ちも理解できるかな。
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