第2話 俺が考える"真の強者"とは

 真の強者とは何か?


 この問いに対する答えは千差万別だろう。


 真の強者イコール最強と考える人もいるかもしれないし、武の道を極めた人間こそがそうだと信じる者もいるだろう。


 否、とは言わないけど俺も1つ、明確に真の強者とは何かという問いへの回答を持っている。


 能ある鷹は爪を隠す、ということわざがあるが、その鷹こそが俺の考える真の強者だ。


 それだけ? とこれを聞いた人間は思うかも知れない。うん、本当にこれだけ。


 普段は力をひけらかすことなく、適切なタイミングで適切な力を発揮する。なんともスタイリッシュで完成された存在だ。


 誰にも気づかれることなくパーフェクトゲームを取り続けるように問題を解決する者。


 そういう存在に俺はなりたい。


「さて、もうちょっと魔物狩ったら帰ろうかな」


 今宵の魔物狩りにはいつもより少し力が入っていた。


***


 時は流れ、今の俺は15歳。あれからも努力を決して止めることはなく、さらなる高みを目指して精進し続けた。


「99……100。ふぅー、今日はこの辺でいいかな」


 元々俺はバカみたいに体力が尽きるまで筋トレをしていた。


 だが、成長し、多くを知っていくことでだんだんそれがむしろ逆効果であることを理解した。


 1つはやりすぎによって筋肉の修復が間に合わないいわゆるオーバーワークという状態になってしまうこと。


 これは治癒ができる光属性魔法で筋肉の細部まで修復すれば問題ではなくなった。


 真の問題は2つ目。


 それは筋肉が発達しすぎることによる俊敏性の低下。これが魔法戦を行う上で致命的だった。


 いくらトレーニングで体を鍛えようがそれだけでは魔力による身体強化には遠く及ばない。


 つまり無駄な筋肉が多ければ多いほどに不利になっていく。


 これはボディービルダーになるためではなく、最適な体を作るための工程であることを忘れてはいけない。


「明日はもう入学式か~、早いね」


 今の俺は15歳になり、この国1番の魔法教育が受けられるルガード魔法学園の入学式が明日に控えている。


 魔法学園での生活はとても楽しみだ。いよいよこれまでの努力を発揮できる機会がやってくる。


「でも、それまでにあれをやっておかないとね」


 そう、俺は学園に入学するまでの目標を1つ立てていた。


 ずっと1つ大きく立てた目標を追い続けるだけではいつかどこかで折れてしまう。


 そうでなくてもモチベーションが低下して効率が落ちることも考えられる。


 だから俺も中間となる目標を立てて行動していた。


 その目標とは、成体となった龍種を単独で討伐すること。


 魔物の中でも最上位クラスに位置する龍種。それにたった1人で勝利できれば自分の成長と共に真の強者に近づく実感を得られる。


 もはや日課となっている窓からの出発をし、遠く、とにかく遠くの龍が住む山岳へと向かった。


「おおっ、寒っ」


 標高2000メートル強ある山の山頂なだけあってめちゃくちゃ寒い。


 身体強化をしていることで多少寒さへの耐性はあるものの、それでも寒い。もうちょっと寒さ対策すればよかったかな。


「お出迎えとは親切だね。手間が省けて助かったよ」


 巨大な柱のように突き出した岩の上からじっくりと、全身が漆黒の鱗に包まれた『破滅の黒龍』という二つ名を持つ龍、バハムートがこちらを見下ろしている。


 こんな寒いところで生息数の少ない龍種を探すのはごめんなのでなんともありがたい。


「よし、早く体動かして温めたいし、始めよっか」


 右手へ魔力を放出し、寸分の狂いもない魔力操作でその魔力を剣の形へと成形していく。


 魔力操作を極めた先にあるものは魔力の無駄が一切ない最高効率だけだと思っていた。


 しかし、実際はそれだけではなく、もう1つ、魔力の固体化という技術を得ることができた。


 それに伴い、剣術も学び始めた。これまでは剣の、携帯しなければならないという不便さを嫌っていたが、いつでも魔力で剣が作れるようになって、それが解消されたからだ。


「ガオオオオオオッ!」


 バハムート青紫に輝く炎を吐き出しながら咆哮した。


 それが開戦を告げる合図となった。

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