男性用シャンプーの妖精、ミントちゃん見参!

金澤流都

排水口からぬるり

 最近の男物のシャンプーは便利だ、髪も顔も体もおなじやつでまるっと洗える。ズボラの僕にはたいへんありがたい。

 僕はオシャレをする気があんまりない、枯れた若者だが、風呂だけは毎日真面目に入っている。枯れているのと不潔なのは別物だ。

 ある日いつものように髪顔体とミントの香りに包まれて、スッキリと洗い流したところ、なにやら排水口から「出して〜」と声が聞こえた。

 えっ、猫でも入り込んだ? いや猫は話さない。だったらなんだ。ビビりつつフタをとりでろりと溜まった髪の毛を片付けると、なにやら妖精さんが現れた。


「きらきら〜ん! 男物シャンプーの妖精・ミントちゃんだよ!」


「はあ……」


「ぎゃっっ! ワイセツブツチンレツザイ!!」


 お前が勝手に出てきたのに何をいう。とりあえずタオルを腰に巻く。


「なに? なにごとだったわけ?」


「だから、男物シャンプーの妖精・ミントちゃんだってゆってるじゃん! 飲み込みがわるいぞ!」


「それで、なにが起こるの?」


 尋ねるとミントちゃんとやらはポカンとアホの顔をした。妖精が出てくるなら日曜日朝の女児向け番組みたいに変身するとか、そういうことがあるのではないか? と思ったのでこう尋ねたのである。


「いやなにも起こんないけど」


 なにも起こんないんかい。


「あんたはイタズラ大好き妖精さんを召喚したんだぞ? ムフフな展開を期待しなさい!」


「いや……僕そういうのわりと興味ないから……好きでもない人とムフフしても嬉しくないから……」


「う、うそでしょ……? こんなに可愛い妖精さんに迫られて嬉しくないとか……!」


 ざざざー。

 シャワーをかけたところ、妖精とかいう存在はみるみる溶けていった。なんだったんだ。僕も体の泡を落として風呂場を出た。


 しかし妖精は次の日も排水口からぬっと現れた。排水口の抜け毛の多さに「僕も大人になったな……」と思いつつも、とりあえず流して追い出した。

 毎日そうだった。けっこうな迷惑である。

 しかし髪顔体をいっぺんに洗うシャンプーが残り少なくなり、薄めてシャカシャカして使っていたら妖精は出なくなった。


 これで安心して風呂に入れる。さすがにもう空っぽなので詰め替えたら、また妖精が出没するようになったのだった。

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