妖精 【KAC20253】

姑兎 -koto-

第1話 妖精 

我が家には、妖精さんが居るらしい。


君は、お気に入りのおやつを二人で分けた残りは妖精さんの分と言いながら大事に仕舞う。

僕が「妖精さん、太っちゃうね」と笑うと「我が家の妖精さんは、ぽっちゃりさんなのよ」と誤魔化す。

君が食いしん坊であるばかりに、妖精さんまで食いしん坊のぽっちゃりさんにされてしまうなんて妖精さんが不憫だ。


結婚指輪を無くした時も、バターナイフが無くなった時も。

「妖精さんが持って行っちゃったみたい」と言う。

君がうっかりさんであるばかりに、我が家の妖精さんはいたずらっ子認定されてしまう理不尽さ。


こんな風に我が家では便利使いされている妖精さんだが、一般的に、大人になると見えなくなるものらしい。

実際に君は、子供の頃に小人を見たことがあると言う。

君の中では、小人さんも妖精さんも同じカテゴリーなのだろう。

そして、僕が見えないのは大人だからとうそぶく君。


僕の前では、君は、子供のまま。

この先もずっと、大人になる気は無いらしい。

それは、子供時代に子供らしく無邪気に過ごせなかった反動かもしれないし、僕に対する何かの意思表示かもしれない。

でも、それで、君が幸せならば、僕はそれでいいと思っている。



我が家は、君が作り上げた君だけのネバーランド。



だから、当然、他の登場人物もいる。

時折、ウェンディになって、あれこれ僕の世話を焼く君。

忠告を聞き流して出かけて少しばかりひどい目に遭った僕に、ドヤ顔で「ほらね」と言ってフック船長の如く高笑いしてる君。

構って欲しくてティンカーベルみたいに意地悪する時のワクワクしている君。

どの君も、僕から見れば我儘なおばさん妖精。



兎に角、怒っている時以外ずっと笑顔。

笑顔は伝染するものらしく、どんな君に出会っても、僕は笑ってしまう。

それは、幸せな事なのかもしれないと思わないでもない。


君との生活は、大変だけれど。

楽しい。



会話の最中に、すっと視線を外し、くうを見て微笑む君。

視線の先を見ても何もない。

そして、何事もなかったかのように会話に戻ってくる。


わかってる。

何かを思いついてワクワクしていただけ。

大人の僕はそう思うけれど。


僕の中に少し残っている子供が囁くんだ。


もしかしたら、本当に、君には妖精さんが見えているのかもしれない。


ー完ー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妖精 【KAC20253】 姑兎 -koto- @ko-todo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ