🏁 Chapter 1 - 《Ignition: 再会と発火》



   ---「待つ者、現れる者」---




深夜2時、東京・首都高速。


パーキングエリアには、長距離ドライバーのトラックや、エンジンを切った乗用車が並んでいる。

けれど、その中に一台だけ、異質な存在があった。


エメラルドグリーンのSUBARU WRX STI。


ボンネットに寄りかかりながら、大川彩主はタバコを口に咥えた。

ライターの火をつけ、吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出す。


静かな夜。しかし、そこには確かに鼓動があった。


「……遅ぇな。」


煙とともに呟く。



---


---「東京の夜と、首都高の鼓動」---


東京の夜は止まらない。

高層ビル群のネオンは、闇の中で眠らずに輝き続ける。

都市の喧騒が遠のいても、ここ首都高には別の"音"がある。


エンジンの唸り、ブレーキの軋み、風を切るタイヤの音――。


   ---「走る者たちのための道。」---


昼間の混雑とは違い、深夜の首都高は"速さ"のためにある。

まるで都市の血管のように、絶え間なく流れ続ける。


だが、その流れを乱し、己の速さを証明しようとする者たちがいる。


彩主はタバコを吸い、微かに残った火を指で弾いた。

小さな火の粉が闇に消える。


「……どんな走りを見せてくれるかな。」


その瞬間――


遠くから響く、独特なエンジンの咆哮が聞こえてきた。



---


---FC3Sの登場、計算された走り---


最初は微かに、低く響くロータリーの鼓動。

だが、それが次第に強くなり、回転数が上がるごとに音が鋭さを増していく。


「やっぱ、いい音してんな……。」


彩主は口元を緩め、遠くのヘッドライトを見つめた。


赤い光が一つ、一直線に近づいてくる。

まるで風を切るように、静かに、しかし確実にラインを刻む。


  「最小限のブレーキング、最適な荷重移動――まるでレールの上を走るみたいだな。」


直紀のFC3Sは、アウトからインへと滑らかにアプローチし、わずかにロールさせながらスムーズに立ち上がる。

余計な動きは一切ない。すべての操作が、最適解の中にある。


「相変わらず、綺麗すぎる走りだぜ……。」


対する彩主のWRX STIは、四輪駆動のトルクを武器に違うラインを描く。

彼の走りは、"本能"のまま。直紀とは真逆のスタイルだった。



---


--- 二人の再会 ---




「待たせたか?」


「おう、ちょっとな。」


彩主はタバコを指で弾き、地面に落とした。


「けど、やっと会えたな。」


直紀は無言でエンジンを切り、車を降りる。

黒のジャケットを羽織り、夜の風を感じるように軽く息を吸った。


「お前がSTI乗ってるって聞いた時は笑ったぜ。」


「お前こそ、ロータリーに行くとはな。」


彩主はニヤリと笑う。


「まあな。あの頃と同じで、速いものに惹かれるだけさ。」


直紀は、高校時代のことを思い出す。

昼休み、教室の片隅で彩主とゲームのレースを繰り返していた。

あの時も、彩主は直感的に動き、無茶なコーナリングで勝負を決めていた。


「変わってねぇな、お前は。」


「それはお前もだろ。」


短く笑い、二人は互いの車を見やる。




------「試しのバトル、緊張のスタート」----




「試してみるか?」


「おう、試しにな。」


直紀が短く笑う。


「お前の走り、今どんな感じか確かめさせてもらうぜ。」


二人が車に乗り込む。


エンジンが再び目を覚ます。

ボクサーサウンドとロータリーサウンド――。

全く異なる鼓動が、互いに混ざり合う。


二台の車が、パーキングエリアを抜け、夜の首都高へと合流する。


直紀のFC3Sがわずかに前へ出る。

彩主はそれを見て、じわりとアクセルを踏み込んだ。


タコメーターの針が跳ね上がる。

トルクを路面に伝え、四輪が均等に地面を掴む。

彩主は瞬間的にシフトを叩き込み、前のFC3Sを追う。


直紀はバックミラーで一瞬だけ彩主のWRXを確認する。

「……追ってこいよ、本能のままに。」


その瞬間、彩主はアクセルを深く踏み込んだ。

二台の車は、漆黒のアスファルトの上を駆け抜けていく。


エンジン音が高まる。二台は、さらに加速する。





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