エピローグ

 春が近づいているのだろう。温かい空気が街中を覆っている。桜が花開くのではないかと思うほどに、ぽかぽかとした陽気が全身に染みる。テストも終わり、後は春休みを待つだけだ。殆ど消化試合と化した残りの授業にはどうも力が入らない。脱力した体を引きずりながら、通るはいつもの帰路である。

 小学生の集まる近所の公園の側にトラックが駐まっている。大量に積まれているであろう段ボールを、お兄さんたちが家の中に運び入れる。時折見る、何の変哲もない引越し作業を眺めていた。私もきっと、お兄さんたちのように手伝いに行くだろう。そうなれば嬉しいだろう。信号が何度も変わるのを視界の端で捉えていた。ふと信号機の点滅が見えて、思い出したかのように走って横断歩道を渡る。然し渡った横断歩道は、いつもの帰路ではない。家の近くであるはずなのに、一度も見たことのない坂道が現れた。鞄からスマホを取り出し、地図を確認する。家の近くであることに間違いはない。また坂を上れば、いつもの帰路に繋がる。坂を上りながら、地図を閉じる。メッセージの通知が見える。私は横にスワイプして、予定の確認をした。王子や委員長たちと、初めて自分から誘った予定が刻まれているのが見える。メッセージを開き、返事をする。


「ごめん、その日は用事があるんだ」

「そっか。残念だけどまた別の日だね」

「ほんとにごめんね。その日は引越しの手伝いに行かないとなんだ」


 私はもう一度予定表を見る。その日には優空と交わした約束の痕跡が、確かに残されていた。

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炬燵の中、きっと同じ時を過ごす 夜霧久遠 @Yogirikuon

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