第4話 旅の準備




 冒険者ギルドの杜撰さに文句を言いたい、とシャオーネは激怒した。


「このギルドは本もまともに管理できないのかしら」


 激怒した勢いで、そのまま心の声が口に出てしまっている。


 ミレナとシャオーネがやってきた冒険者ギルドの書庫、の奥にある過去の書類をまとめた場所。そこに入るには、色々と制限がある。冒険者としての実績や、人物調査の結果なんかをクリアしなければいけないのだ。今回はシャオーネの普段の努力のこともあり、入る許可が降りた。


 しかし、そこで二人が見たのは、散乱した書類の山であった。未整理、乱雑、埃が舞い、虫喰いまである。


 前述したように、魔法使いの端くれとして、シャオーネは抗議文をギルドに叩きつけたくなった。なので、調べるのが終わったら、まっさきにやろうと決意した──だけでなく、頭の中で下書きが着々とでき始めている。


 けれど、それはとりあえず置いておいて、調査を進めることにする。


「私はこっちを調べます」


「それじゃあ、私はこっちね」


 ミレナとシャオーネ、二人は本を一つ一つ手に取ったり、背表紙を眺めたりして、目的のものを探しはじめる。


 少し時間が経って、シャオーネはパッと見でどこに何がおいてあるのか、何となく把握できた。学園での資料配置とほぼ似通っていたからだ。


 おそらく、こんな惨状になる前は、きちんと管理されていたのだろう。どこかで、引き継ぎがうまくいかず、放置される結果となったのだろう。シャオーネは書庫に起こった過去を想像し、ギルドめ……と再び苛立ちがぶり返す。


 だが、いつまでもブツクサと文句を言っているわけにもいかない。


「ミレナ、大体は位置がわかったわ。歴史についての本はここだけど、あなたはどうする?」


「一緒に探したほうが早いでしょう。それに、見逃しも減るはずです」


 ということで、シャオーネとミレナは歴史の本を見ていく。特に、近くにあると言う遺跡、それと同じ時代のものを探しているのだ。


 目的のものはそうそう見つからない。そもそも、遺跡の時代がよくわかっていないのだ。神話時代から賢王時代の間であることはわかっているのだが、それ以上は不明だ。それも、“魔法による普遍の都市”と言う特徴から、この時代以降の技術では不可能であったから、という暫定的な予想でしかない。


「はぁ……見つからないわね」


 遺跡に行く、これは決定事項である。次に、遺跡の特徴を調べる。今はこの段階なのだが、全くと言っていいほど進捗は良くない。


「こちらもです」


「やっぱ、こんな書庫にまともな本なんてないか……」


「遺跡は冒険者ギルドの管轄だったはずなんですけどね」


「歴史は範囲外、って言い訳してそうだけど?」


「言い訳というか、事実ではありますけどね」


 それでも、郷土史ぐらいはあってもいいと思うんだけど……と付け加えるミレナ。


 正論である。


 ただし、大都市でもなければ郷土史なんて必要としないという点に目を瞑れば、であるが。


 よくよく考えれば、地元大都市のナチュラルマウントというやつである。一瞬、性格が悪いだろうかと、自己嫌悪気味になるミレナであった。なお、すぐに立ち直る模様。


「……はぁ。けど、やっぱ一番あり得そうなのはアレよね」


「アレ、とは?


「ここら辺に神殿や魔法都市があったという記録はない。むしろ、そういうのは王都付近で、ここら辺は僻地。なら、今ある遺跡は『僻地に作ったほうが良いもの』という答えが出る」


「それは……つまり?」


「軍事基地とか研究所。どっちも事故したらどんな被害が出るかわからないしね」


「ははぁ……」


「で、どちらだと思います?」


「両方って可能性もあるんだけどね。軍の研究所、みたいな」


「なるほど」


「まぁ、それ以外だったとしても、ろくなものじゃないね。これだけは間違いない」


「これだけ調べてわかったのは“危険がありそうだと言える”ですか」


「そうなるね」


 『成果なし』とあまり変わりないですね、と憂鬱げなため息を吐くミレナ。


 シャオーネも、これ以上書庫で調べても、これと言った情報は出てこないだろうと思った。


「それじゃあ、現地調査でもしますか?」


 ヤケクソ気味に放たれた言葉。


 けれど、ミレナには良い案だと感じたようで、「それよ!」と言って、書庫を飛び出していってしまった。


「……飛び出しても、すぐに行けるわけではないのですが」


 聞こえていないのでしょうね、呆れを含んだため息を吐くミレナ。


「とりあえず、片付けますか」


 ミレナはシャオーネの後を追うより、広げた本の後片付けをすることにした。


 広げられた地図をたたんで、元にあった場所へ置く。そこには、雑多な紙が積み上がっている。その紙束の後ろに、1枚の紙切れを見つけた。本棚と本棚との隙間にあったのだ。


 先ほどは気づかなかったもので、とても古そうに見える。


「これは……」


 手に取ってみると、『禁書指定』の文字が目に入った。そしてその下には、本のタイトルと思しきものが四つほど記されている。


「『思考の制御、または誘引について』『悪魔と契約』『神の存在否定と魔法の源流について』『原初の言葉』」


 口に出して読んでみてもさっぱりわからない。もしかしたら、古い書類のため間違った解釈をしてしまったかもしれない。そう思ってもう一度読み直す。けれど、やはり同じようにしか解釈できない。


「あとでシャオーネに聞いておきましょうか」


 『禁書指定』の言葉から、なんとなくの見当は付く。だが、それは見当がついただけであって、自信を持って断定できるものではない。


「さて、これで終わりですか」


 最後の本を棚に戻して、ミレナも書庫を出る。


 閑散とした廊下を通り抜ける。次に、騒がしい冒険者ギルド日併設された酒場を横切る。シャオーネはどこにいったのだろうか。そう思いながら、宿へと戻る道を歩く。けれど、彼女は見つからない。


 ついに、宿屋に戻ってきてしまった。外から、泊まっている部屋を見つめる。


 窓は閉まっており、何の変哲もない。


「いなかったら、肉抜きにしようか」


 勝手にいなくなって、どこにいるのかもわからないようなやつにはぴったりの罰ではなかろうか?


 宿屋にはほとんど人がいなかった。今はお菓子の時間であることを考えると、当たり前だろう。ミレナは、肉じゃなくてお菓子抜きにするのもありだな。なんて考えながら階段を登って行った。


「いない、ですね」


 やはりと言うべきか、案の定と言うべきか、シャオーネは宿屋にいなかった。


「やはりl、今日のお菓子は無しということで決定ですね」


 なお、これには、外でお菓子を食べてくるという可能性を考慮していないのだが、ミレナは気付かない。


「はぁ……」


 見渡せども、特に変化はない。


「荷造りでもしましょうか」


 この後、遺跡へ向かうことは既定路線。そして、シャオーネは待つのが嫌いである。


 イコール、明日は遺跡へと向かうことになる、と予想される。そうなると、明日から旅をするための準備が必要である。


 それで、荷造りをしようというわけなのだが……。


「終わりましたね」


 苦労することなく、荷物はすぐまとめることができた。もともと荷物が少ないというのもあるが、消耗品がないというのも大きい。後で買わなければいけないのだが、それは置いておこう。


 それよりも、今しなければいけないことがある。


 遺跡の場所を記載しなければいけないのだ。


 いつも持ち歩いている地図を取り出す。この国の地形が全て描かれたものだ。ゆっくりと、道を表す線を見つめる。


 今いるフイロインナ子爵領の中心、都市ソラウスから、港湾都市シシウヰへと通じる道だ。この道の間で、遺跡へと行ける道を探さなくてはいけない。だが、


「……わからん」


 ミレナには、全くもってわからなかった。地図が悪い、というのもあるかもしれない。なにせ、地図には『山』の記号があるだけなのだ。


「とりあえず、シャオーネがいないと何も決められないわね」


 悲しいことに、その肝心要のシャオーネがいないのだが。


「探しにいくべきかしら?」


 一瞬の躊躇。それを待っていたかのように開かれる扉。


「ミレナ!」


「……なんでしょうか?」


「行こう!」


 両手には、旅道具を持っている。あとは、それらを詰め込めば今すぐにでも出発できる、といったところだ。


「今から、ですか?」


「えっ、もちろんそうだけど?」


 何が『もちろん』だと言うのだろうか、とミレナは疑問に思った。


「そもそも、場所はわかってるのですか?」


「立入禁止区域は元からわかってるし、あとは虱潰しに調べればわかるでしょ」


「……結構広くなかったですか?」


「だから、誰もいちいち監視とかしてないし、大丈夫だよ!」


 何がだよ。ミレナは心の中で叫んだ。


 どこにも大丈夫な要素がない。計画を立てない奴は長生きできないぞ、と言いたい。


「そもそも、今から行っても遺跡には着かないのでは?」


「さすがに今日は山には入んないよ。そうじゃなくて、山の麓に宿があるから、そこまで行ければ十分でしょ?」


 ミレの中では、シャオーネが計画を立てられないやつから、計画は立てるが杜撰で、せっかちなやつにランクアップした。


 そして、悲しいかな。日程的に間違っていることを言っているわけでもないのだ。ミレナに、シャオーネを説得することはできなかった。杜撰な計画なくせに。


「……はぁ、わかりました」


 そういうことになった。


 かくして、二人はお菓子を食べる時間に、街を出ることとなった。



 

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