第18話

 クレアはルナとネリスへの関心が強くあれこれ質問してきた。ルナとネリスは最初は緊張していたがルナがあまり気取った雰囲気で話すことがなかったのでだんだん落ち着いて話すことが出来るようになっていた。


「それじゃ二人の出会いは偶然だったのですね」


「まあ、私があの日こっそり抜け出していなかったら会わなかったからクレアが言う通りなのかもしれないね」


「ふふ、とても素敵ですわ」


「そ、そんなことは……」


「いいえ、そのような出会いをしたお二人はきっと特別なのです。現にルナはネリスと出会った後に力に目覚めたのですし、ネリスも時を同じくして覚醒したのですから」


 ルナは興奮した様子でまくしたてる。ルナの言葉を聞いていたネリスとルナは少しは透かし苦なってしまった。


「おい、クレア。私の弟子をあまり困らせないでくれよ」


「あら先生。私だって先生の弟子の一人ですよ」


 舌を出していたずらっ子のような仕草をするクレアを見てルナとネリスはくすりと笑ってしまった。


「なんだ、お前達?」


「いえ、カイリ様は慕われているなって」


「なんだ、ネリス。それは私が慕われていないとでも思っていたということか?」


「いえ、カイリ様は普段あまり他の方とは関わらないのにどうやってクレア様と知り合ったのかなって」


「単純な話だ。こいつの父親が娘を鍛えてやって欲しいと言ってきて私が鍛えただけだ。まあ紡ぎ手として新しく力に目覚めた者を鍛えることは嫌ではなかったからな。それからの縁だ」


「クレアのお父さんっていうことは……国王様ってこと?」


「ええ、そうですね」


 世の中には不思議な縁というものがあるなと自分の師とクレアの知り合ったきっかけを聞いてルナは思った。


「ふふ、でもこうして星の紡ぎ手の仲間が増えたことはいいことですわ。最近裂け目が現れる頻度も増えていますから……」


 初めてクレアの表情が憂いを帯びたものになる。


「裂け目が現れることが増えているんですか?」


「ええ、父も頭を悩ませています。それで先生にもどう対応したらいいか助言を受けたりしていたんですよ」


「まあ、今のところ私が把握している紡ぎ手に声をかけて国に協力してもらっている段階というだけなんだがな」


「本格的な動きはこれからになると思います」


「ただ紡ぎ手を集めて対抗するって試みは初めてだからな。どこまでうまくいくかは分からない」


「今まで影の眷属との戦いは星の紡ぎ手が各個で行ってきましたからね。ただ今の裂け目が増えている状況を考えて国としても影の眷属への備えを強化しておきたいんです。そのためにも王国が紡ぎ手と協力して動けるようにしておきたい」


 クレアは真剣な面持ちで語る。そんな彼女を見てルナは心の底から凄いなと思ってしまった。


(私は紡ぎ手になった時に自分のことしか考えてなかったけれどこの子は国やそこに生きる人のことをちゃんと考えてるんだな)


「クレアは偉いね」


 ルナが呟いた言葉にクレアは一瞬きょとんとしてしまう。しかしなにを言われたのか理解したクレアは少し頬を染めてはにかみながら答えた。


「私にはその力がありますから。生まれた地位と紡ぎ手としての力、きちんとこの力を人の生活の向上に役立てたいのです。そのためなら私は自分に出来ることはなんでもします。ですからルナ、それからネリスも」


 クレアは二人のほうをじっと見た後、頭を下げる。


「どうか私に力を貸してもらえないでしょうか? あなた達が強力してくれるなら私も嬉しいです」


 クレアのお願いを聞いた二人に迷いはなかった。


「そんなことならいくらでも協力するよ。私も自分の力を役に立てたいからね」


「私も協力します。あなたが求めている紡ぎ手の力とは違いますが私の力も影の眷属に対抗できるみたいですから」


 二人の答えを聞いてクレアは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。二人のおかげで少し自分に自信が持てました」


 それからしばらくの間、他愛のない話で盛り上がった。


「さてそろそろ戻ろうか」


「あ、もうこんなに時間が経っていたのですね。つい楽しくて話込んでしまいました」

「私達も楽しかったよ。今度また会えるならまたいろいろ話したいな」


「ええ、ぜひ」


 ルナ達がクレアの部屋を立ち去ろうとした時、一人の兵士がクレアの部屋に大慌てで駆けこんできた。


「た、大変です! 影の眷属が……大量に現れました!」



「……っ!?」


 知らせを聞いたクレアの顔が一気に険しいものになる。


「状況を教えてくださる」


「はい、現在王都の北の門の近くに裂け目が出現し、そこから影の眷属が押し寄せて来ている状態です。必死に食い止めている状態ですがそれがいつまで可能かは分かりません!」


「それほど数が多いのですか?」


「は、はい! ぎりぎりの状態です」


「分かりました。私もその場に向かいます。それまでなんとか持たせてください」


 クレアは兵士に命令を伝達を終えるとルナとネリスのほうを向く。


「すいません、お二人のお力を借りなければならない事態がさっそく発生してしまいました」


「構わないよ。むしろ私達も先生に鍛えてもらった力を試すいい機会だ。ネリスもクレアに力を貸すことに異論はないよね」


「はい、私もルナの考えに賛成です」


「ありがとう、二人共。それではこちらに来てください」


 ルナに言われた通り二人は彼女の近くに歩み寄る。彼女の手には一つの指輪が付けられていた。


「これは転移の指輪といって対応する転移石へ移動できます」


「そ、そんな便利なものがあるの!?」


 驚くルナとネリスと対照的にカイリはまったく動じていない。この指輪について知っていたのだろうとルナは思った。


「ええ。といってもこの指輪を持っているのは王族だけです。これを利用してさっき報告があった北門へと向かいますよ。皆さん私の手の上に自分の甲を乗せてください」


 クレアに指示されるまま、ルナ、ネリス、カイリは彼女の手の甲に自分の手を乗せる。


「では行きます。転移目標、王都北門」


 クレアの命令と共に4人は光に包み込まれ、クレアの部屋から姿を消した。

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