第17話
それから二人の修行の日々が始まった。
まずルナの特訓は主に力の制御をうまくすることを目的に行われた。ルナと戦闘した際にカイリが見せた障壁を効率よく展開できるようにカイリの攻撃を何度も受けて練習したり、攻撃をカイリに向かって効率よく放つ練習を徹底的に行った。
ネリスに関してはひたすら戦闘の基礎訓練を行った。何度も手合わせを繰り返していくうちにネリスの戦闘技術もどんどん向上していった。
そうして二人が賢者カイリのもとで生活を始めてから数か月が経った。
「よし、二人ともそこまで」
カイリが見守る先ではルナとネリスが二人で模擬戦闘を行っていた。呼びかけられた二人は戦闘をやめてカイリの元へと駆け寄る。
「二人共、なかなか戦い方がうまくなってきた。ルナはきちんと力を制御して障壁や攻撃を放てるようになっているし、ネリスのほうも戦闘技術は確実に上達している」
「「ありがとうございます」」
二人は同時にカイリに頭を下げる。カイリはそんな二人を見て不敵に微笑んだ。
「そこでだ、私からの提案なんだが……お前達二人で私と戦ってみないか?」
「えっ?」
カイリの提案にルナが驚きの声をあげる。ネリスも彼女の提案に戸惑っているようだった。
「いやせっかくだし自分達がどれくらい成長したか確認したいだろう? ネリスなんて一番最初は私に負けてるんだし」
「そんなふうにいいながらあなたが成長した私達と戦いたいだけでは? カイリ様」
ネリスが少し冷めた声でカイリに問いかける。この数か月で分かったことだが師匠はかなり人をからかったり試したりすることが好きだ。ネリスは何度かカイリにからかわれたりしたため、こういった時に淡泊な対応をとるようになっていた。
「お、ネリス、私のことを大分理解してきたな。お前だって負けたままは悔しいだろう?」
「それは……まあ」
「なら決まりだ。ルナもそれでいいか?」
「はい、私も一度師匠と手合わせ出来るならお願いしたいです」
「ふふ、それじゃ用意してくれ。楽しみだな、成長したお前達と戦えるのは」
*
「二人とも、準備はいいか?」
カイリが二人に呼びかけてくる。隣に立ったルナとネリスは同時に頷いた。
「それじゃ……始め!」
カイリの掛け声とともに二人は動き出す。まずネリスは漆黒の剣を振るってカイリに斬りかかった。カイリはその攻撃をなんなく避けている。
しかしネリスの攻撃は囮でしかない。ネリスの攻撃をかわしているカイリ目掛けてルナが攻撃を放った。眩い光がカイリを焼き払おうと迫る。
カイリは迫ってくるルナからの攻撃に対して障壁を展開して防ぐ。好きをついて攻撃しているつもりだがまったくカイリには通じていない。
「やっぱり簡単には攻撃を喰らってくれませんね」
ネリスの苦々しそうな発言にカイリは不敵に笑う。
「当たり前だろう。そんな簡単に喰らったら師匠の名折れだ」
カイリが反撃を開始した。ネリスの攻撃をかわした彼女は強烈な蹴りを彼女に放つ。漆黒の剣でなんとか受けたネリスだがその体は大きく吹き飛ばされて地面を転がった。
「ネリス!」
「よそ見をしている場合か? ルナ?」
「!?」
ネリスを気遣うルナに容赦なくカイリの攻撃が襲い掛かる。美しい光がルナに一斉に降り注いだ。ルナは慌てて障壁を展開してその光の雨を防ぐ。
「うん、大分障壁の扱いも上手くなった。けれどまだまだだな」
カイリは攻撃を止めることなく新たな詞を唱え、右手に剣を形成する。そのまま地を蹴ってルナに接近するとその剣を思い切り横薙ぎに振るった。
「うっ……」
「最初に私の攻撃を防ぐことに手一杯になっていてはつまらんぞ」
初撃をかわしたルナに再び光の剣が振るわれる。次第にルナは追い詰められていったが、
「簡単には負けません!」
戦いに復帰したネリスがカイリとルナの間に割って入る。漆黒の剣の纏う黒い靄が光の剣を受け止め弾き飛ばした。
「ネリス、腕をあげたな。しかしお前の力は本当にどういう仕組みなんだ? 私の剣を受け止めるなんて」
「それは私にも分かりませんよ!」
カイリを弾き飛ばしたネリスはそのまま追撃をかける。それに加えてルナがネリスを援護するように攻撃を放ってくる。
「いいぞ! 二人ともその調子だ! ほら今回は体力が尽きるまでやるぞ!」
高揚したカイリの声が響き渡る。彼女は戦いを通じて感じた教え子二人の成長を楽しんでいた。
*
「あー! もう駄目!」
ルナは叫んで地面に転がる。彼女の横ではネリスが剣にもたれかかるように膝をついている。
「や、やっぱりカイリ様は強いです……」
息も絶え絶えといった二人に対しカイリは余裕の表情で立っていた。
「ははは、私もまだまだやれるらしい。とはいえ二人共成長したな。私相手にあれだけやれるとは思わなかったぞ」
カイリの励ましの言葉にも二人は答えない。それだけ余裕がない状態なのだ。
「さて今日がもう休め。ああ、明日は修行は休みだ。私も行かなければならないところがあるからな」
「? 行かなきゃならないところってどこですか?」
「なに友人に呼び出されてな。ちょっとそいつに会いにいくだけだ」
「友人……先生にそんな方が……」
「なにか今失礼なことを言っただろう、ルナ?」
「ひ、ひい……!? な、なんでもないです!」
じろりとカイリに睨まれ震えあがるルナ、ネリスはそんなルナを呆れた目で見つめる。
「まあ、というわけだ。明日はお前達もゆっくりしろ。あ、そういえば……」
カイリはなにかを思い出したように呟く。
「そういえばあいつお前達を弟子にとったことを伝えたら会いたいと手紙に書いていたな……なら」
カイリはネリスとルナのほうを見ると、
「ルナ、ネリス。ちょっと話がある。さっき言った明日の件、お前達もついてきてくれないか?」
「えっ?」
「それはまたどうしてですか?」
「私が会おうとしているやつがなお前達に興味を持っているんだ。手紙で会いたいと言われていたことを忘れていた。お前達がいいなら奴に会ってもらいたい」
「私は構いませんけど……ネリスはどう?」
「はい、私もいいですよ。けれどカイリ様が会いに行かれる方ってどんな方なんですか?」
ネリスの質問にカイリは事もなげに答えた。
「なに……この国の王族の一人――クレアだ」
*
翌日、ルナとネリスはカイリと一緒に王都の王城までやって来た。
「ほ、本当に来ちゃった……まさか王城に来ることになると思わなかったな……」
「私もです。緊張しますね……」
緊張する二人に対しカイリは不思議そうな表情を向ける。
「いや、なにをそんなに緊張しているんだ? 二人共?」
「私達、こういうところに入るのは初めてだし、ましてや王族の肩に会うことになるとは思っていませんでしたから……その緊張していて。逆にカイリ様は全然緊張されてないのですね」
不安な気持ちを吐露するネリス。カイリはそんな彼女の様子を見てカイリは笑った。
「ああ、成程。大丈夫だ、クレアはそういうことをあまり気にする人間じゃないから。変にかしこまらなくていいぞ」
「そ、そうなんですか……」
「ああ、ほらあんまりもたもたするな。いくぞ」
そういうとカイリは城の中へと入って行く。ネリスとルナの二人はおそるおそるその後についていく。
王城の中は壮麗な装飾が至るところに壮麗な装飾が施されており、厳かな雰囲気を生み出している。
「やっぱり私達場違いなんじゃ……」
「そうですよね……」
この世界で一般の人間が王族と接することはまずない。ルナ達もカイリという星の紡ぎ手の実力者と関係を持つことがなければ王族に謁見するなんてこともなかったはずだ。
「よし、着いた」
カイリはある部屋の前で立ち止まる、そのままなんの躊躇いもなくその部屋の扉を叩いた。
「どうぞ」
中から声が聞こえた、落ち着いているが凛とした美しい声が三人に部屋の中へ入るように促す。
「失礼するぞ」
カイリはその声を聴くと遠慮なく扉を開けて部屋の中へと入っていく。ルナとネリスもアwててその後に続いた。
「お待ちしておりましたわ、カイリ様」
「久しいな、我が弟子。健康そうでなによりだ」
部屋の中にいたのは一人の少女だ。美しい銀の髪に青い瞳がよく映える。まだ幼さの残る顔立ちをしているがその身には確かな威厳が備わっている。纏うドレスの装飾も可愛らしく少女に似合っていた。
(これが王族、やっぱりちょっと他の人とは雰囲気が違う。でも思ってより幼い雰囲気だな)
ルナはクレアを見てそんなことを考える。ルナが知っている中で美人だと思うのはネリスだがネリスとは違った系統の美しさを持つ人だななんて思っていると、
「カイリ様、そちらのお二人があなたのおっしゃっていた方々ですか?」
クレアがこちらに興味を持ったのか視線を向けてくる。
「ああ、そうだ。二人ともお前の要望を伝えると快く一緒に来てくれてな。感謝してやってくれ」
「まあ……!」
クレアは感激の声を漏らすと座っていた椅子から立ち上がりドレスの裾を持ち上げて挨拶をする。
「本日は私の要望に応えて来ていただきありがとうございます。私の名はクレア・エストリア。カイリ様からもう私のことは聞いていますか?」
「は、はい。この国の王女様だって聞いています」
緊張のせいか少し言葉を噛みながらルナは答える。クレアは微笑むとルナのほうへ歩みよった。
「初めまして、あなたのお名前も聞かせてもらえませんか?」
「ル、ルナです!」
「ああ、あなたが先生のおっしゃっていた……!」
たどたどしく答えたルナの自己紹介にクレアは目を見開く。そうしてにこりと笑ってルナの両手を自分の手で包み込んだ。
「初めまして、ルナ。あなたは星の紡ぎ手だとカイリから聞いています。どうぞこれからよろしくお願いしますね」
「は、はい……」
相手がぐいぐいくるのでルナは困惑してしまう。王女様と聞いていたからもう少しおとなしい性格だと思っていたが違ったようだ。
「ルナ、こいつはこういうやつなんだ。基本的に好奇心が旺盛で自分が興味を持ったら一直線だ。あとクレアも星の紡ぎ手だから覚えておいてくれ。鍛えたのはもちろん私だ」
「えっ、そうなんですか……?」
「はい」
笑顔を浮かべてクレアはさわやかに答える。
「だから私はあなた達の姉弟子ということになりますね。同じ師を持つもの同士仲良くして欲しいです」
「よ、よろしくお願いします……」
ルナは相手の勢いに押されてたじたじになりながら答えた。
「そして隣にいる方が……」
ルナへの挨拶を終えたクレアは隣にいたネリスへと視線を移す。ネリスはクレアの好奇に満ちた視線が苦手だったのか少し後ろへ下がった。
「ネリスさんですね。あなたのことも先生から聞いています」
「よ、よろしくお願いします、王女殿下」
「そんなにかしこまらなくていいのに。どうぞこういった場ではクレアとお呼びください」
緊張しているネリスにクレアは諭すように語り掛ける。
「さあそれじゃルナさんとネリスさんの話を今日はたっぷり聞かせてくださいね」
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