第14話
リスヴェルの村を出てからルナとネリスは王都への道を進んでいった。王都はこのエストリア王国の一番大きな都市だからそんな場所からでも道がある程度整備されている。とは言っても道中では影の眷属に襲われることあるため危険はゼロにはならない。その道行で死んでしまう人もいる。
ルナとネリスはなんとか最初の街へと辿り着いた。叔父と叔母は二人が王都まで行けるだけの費用は持たせてくれたので宿を取り、体を休めることにした。
「ふう、今のところはなんとか問題なくここまで来たね」
「はい、影の眷属に出くわすこともなかったのは幸いでした」
「もし出くわしても今の私達なら倒してしまえるのかもしれないけれどまだ不確実な力だからあまりあてにしないほうがいいよね」
「はい、ルナの意見に私も賛成です」
村に襲撃のあった日はルナとネリスは力に目覚め、影の眷属であるカミリを撃退した。しかしまた影の眷属に遭遇した時に同じように戦えるとは限らない。
なにせ二人ともまだあの力をどうやって扱うかをまだ把握出来ていないのだ。あの時は危険が迫っていていきなり力に目覚めたけれど、自由自在に力を発動させられるかどうかはまだ分からない。そんなものをあてにして過剰な自信を持つのは危険だった。だからルナもネリスも危険には遭遇しないほうがいいと考えている。
「それにしても星の紡ぎ手の力が自分に備わっているなんて今も信じられないや」
「そうでしょうか? 私はルナがその力に目覚めたことは不思議じゃないと思っています」
「どうして?」
「星の紡ぎ手達は物語を読んだり話を聞く限り、とても意思が強く高潔な人達のように思えます。私にとってルナはそういう人間に当てはまりますから」
「お、大げさだなあ!」
恥ずかしがってネリスから顔を背けるルナ、そんなルナを見てネリスはくすくすと笑う。
「こら! 笑わないの!? まだ王都までは長いんだから変なこと言ってないで体をやすめなきゃ。今日はもうお風呂に入って寝る!」
「はいはい、ふふ、ルナは本当に照れ屋さんですね。誉め言葉くらい素直に受け取って欲しいです」
あんなふうに直球で褒められたら誰だって照れるとルナは内心で思いながらからかってくるネリスから逃れるようにお風呂へ向かった。その日は疲れたのか二人とも寝台に入ると疲れが出たのか睡魔が襲ってきて心地よいまどろみの中へと落ちていった。
*
翌日から二人は再び王都への道を進み始める。道中少し揉め事に巻き込まれたりしたこともあったが、二人はついに王都へと辿りついた。
「うわあ……」
「凄いですね……」
王都を見た二人は同時に感嘆の声をもらす。大勢の人、立派な建物の異様に二人は完全に飲み込まれていた。
「あっちこっちに人がいるし、建物は大きいし……村とはなにもかも大違いだね」
「そうですね、ルナ、まずはどこへ向かいましょうか?」
「うーん、そうだね。賢者様に早く会いたい気持ちはあるんだけれど……」
ルナはちらりと行きかう人々に視線を送る。
「この人の量じゃ宿がとれないって言う最悪の可能性もあるから先に宿を見つけよう。賢者様についてはその後調べたいかな」
「そうですね。ルナの意見に私も賛成です、宿を見つけてから行動したほうが後々問題も起きなさそうですから」
「それじゃとりあえずの方針は決まりだね、まずは宿を探そう」
*
ルナとネリスの予想した通り、王都で泊まれる宿を探すのは困難を極めた。特に王都の中心の宿は部屋が完全に埋まっているところばかりで二人は宿を求めて王都を彷徨うことになる。
そうしてようやく中心地から外れたところに宿を取ることが出来た。最低限の設備しかない宿だったが野宿になるよりはましである。二人は宿を予約する時には日が暮れていた。
「つ、疲れた……まさか宿を探すだけでここまで披露するとは思わなかったわ……」
「やはり予想以上に人が多かったですね……中心地の宿は完全に駄目でした……」
「も、もう今日は動けないよ……賢者様に関する聞き込みはまた明日からにしよう」
「さ、賛成です……」
宿を探すことに疲れ果てた二人にはもはや賢者を探す余裕などなくなっていた。ルナは部屋に入ってそのままベッドへと倒れ込む。
「最低限の設備しかない宿だけどこんな状況じゃそれでもありがたいよ」
「本当ですね、雨風を凌げてお風呂があるだけでも感謝です」
ネリスもベッドの淵に腰掛ける。彼女の表情も疲労の色が濃かった。
「ねえ、ネリス。賢者様ってどういう人だと思う?」
「う~ん、話を聞く限りでは気難しい方のようですしもしかしたら相手にされない可能性もあると思っています」
「だよね、星の紡ぎ手以外会わないらしいし」
賢者カイリは星の紡ぎ手の力に目覚めたものにしか会わないという。もしルナがお気に召さなければ話をしてくれない可能性のほうが高かった。
「そこで重要なのは私の可能性だから頑張ってアピールするよ。ネリスはゆっくり構えてて」
「ルナ……」
「心配しない、ほら今日はもう二人とも疲れてるから早く寝る用意をしよ」
ルナに促されネリスは頷く。緊張しながら二人はこの日眠りに着いた。
*
王都で賢者カイリについて聞き込みを行うと有名人だからかすぐに住んでいる場所は判明した。ルナとネリスは今、賢者カイリの住居までやってきていた。
「本当に王都から離れたところに住んでるんだね」
「ええ、あまり人付き合いが好きではないというのは本当のようです」
賢者カイリの住居は噂通り王都から少し離れた人の往来が少ない場所にあった。一応王国の偉い人達と交流しないといけないためか王都から行ける範囲に居を構えてはいるようだが。
(緊張するけれど、自分に関わることだ。逃げる訳にはいかない)
ルナは大きく深呼吸すると、賢者の家の扉を軽く叩いた、家の中から返事はない。
「返事がない……」
「出かけられているかもしれませんよ」
「う~ん、よしもう一回だ」
ルナはめげずに扉を叩く、今度は呼びかけを加えて。
「すいません、いらっしゃいますか!」
「うるさい! 私は留守だ!」
ルナが大きな声で呼びかけると中から返事が返ってきた。ルナとネリスは顔を見合わせる。
「いたね……」
「いましたね……」
どうやら応対するのが面倒だから最初は答えなかったようだ。どうしたら出てきてくれるのだろうと二人は頭を巡らせる。
「参ったな……この調子じゃなにをしても出てきてくれないかもしれない」
「そうですね、どうしたものか」
「……」
ルナは俯きながら顎に指を手を当てて考え込み、なにかを思いついたのかはっと顔をあげる。
「ルナ、どうしたのですか?」
「今から紡ぎ手の力を少し使ってみる」
「!? 出来るのですか!? まだ完全に使い方を把握出来てるわけではないと思っていましたが」
「いやそうだよ。でもこうなったらそうでもしないと出てきてくれない気がする」
「……上手くいくでしょうか……」
「やってみなきゃ分からないよ」
「分かりました。ルナがそこまで言うのなら」
ネリスは少しルナから距離を取る。それを見届けたルナは目を瞑って集中を始めた。
(思い出せ、あの戦いを。私に答えて)
脳裏にあの戦いを思い浮かべる。攻撃系の詠唱はここでは使えない。
(そうだ、あの障壁だ。それを披露しよう)
「星の加護よ、どうか我らを守りたまえ」
あのカミリとの戦いでルナを守ってくれた言葉をルナは唱える。ルナの周囲に見事に障壁が出現した。どうやら成功したらしい。
(よし、上手くやれた!)
心の中で握り拳を作り喜ぶルナ。後は相手が反応してくれるかどうかだ。
「……おい、今の力を使ったのは誰だ」
扉がゆっくり開かれる。現れたのは一人の女性だった。腰まである美しい銀髪にすらりとした白い手足が映える。瞳は美しい紫色で鋭い視線がこちらを射貫く。服装は白と青を基調とし、星の衣装をあしらったたローブを黒い服の上から羽織っていた。
「私です、賢者様」
ルナは一歩進み出て賢者カイリの鋭い視線にも怯まず答える。賢者カイリはじっとルナを見つめるとはっと驚いた表情を浮かべた。
「お前は……ミレイア!?」
「えっ?」
賢者が呟いた名前はルナの母親のものだった。ルナもまさか賢者の口から母の名前が出てくるとは思っておらず驚く。
「いや……もうあいつは亡くなっていたな。おい、そこの娘、名前はなんという?」
「え? あっ、はい、ルナと言います」
慌てて答えたルナの言葉を賢者カイリはじっと聞いていた。
「そうか、ミレイアの娘か。……とりあえず中へと入れ、いろいろと話したいことがるからな」
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