第12話

「……ここは……」


 酷い頭痛がする。目に入ってきたのはよく知っている自分の部屋の天井だ。どうやら私はあおむけに寝かせられているらしい。


「そうだ、私はあの影の眷属と戦って、それで……」


 記憶を呼び起こして自分の置かれている状況を把握しようと努める。私はあの影の眷属との戦いに勝利した。そして勝ったと同時に意識を失ったのだ。


「誰かがここに運び込んでくれたってことか……」


 倒れてからどれくらいだったとかいろいろ知りたいことはあるけれど、今は部屋に自分以外の誰もいなかった。


「あのカミリっていう影の眷属の言葉、私が星の紡ぎ手……」


 あの戦いの際にカミリから伝えられた衝撃の言葉。私はずっと憧れていた星の紡ぎ手としての力を持っていたのだ。

 だったらどうして今まで力を扱えず、カミリとの戦いで星の紡ぎ手としての力が扱えるようになったのかが疑問として出てくる。もちろん大事な家族やネリスを守れたことはいいことだ、自分に皆を守れる力があることは素直に嬉しい。母を亡くした時のような悲しい思いをせずに済んだのだから。


「私自身のこれからのことを考えていかないといけないな」


 ぼんやりとそんなことを考えていると部屋の扉が開いた。見えたのは美しい黒い髪と透き通るような白い肌。


「……ルナ! 起きたのですね、よかった……!」


 ルナの部屋に入ってきたネリスはルナが起き上がっているのを見るとルナの元へと駆け寄り、抱き着いてきた。


「ネリス……って、うわっ! い、いきなり抱き着かないでよ、びっくりするじゃん!」


「ご、ごめんなさい……でも何日もあなたが起きなかったから心配で……」


「まだ頭痛はするけれどね。私はどれくらい眠ってたの?」


「二日です。皆、心配していました。


「二日も私は寝込んでたんだ……ごめんね、心配かけちゃって」


 ルナはネリスの頭を撫でる。綺麗な髪は上質な布のような触り心地だった。


「ルナ、あなたが影の眷属と戦った時のあの力は……」


「うん、あの影の眷属曰く、星の紡ぎ手の力だって。私が倒れたのは力を使った反動なのかもしれない」


「あれが……星の紡ぎ手の力。凄い力なのですね」


「ネリスだって凄い力の持ち主だったでしょ。記憶をなくす前は本当になにをしてたのよ」


 ルナが口を尖らせて言うとネリスは苦笑いをした。


「あはは……それが分かると私もありがたいです」


「お互い自分に関しての謎が増えちゃったね。でも今はお互い生きててよかったよ。皆のことを守ることも出来たし」


 ルナがそういうと二人はくすくすと笑いあった。



 体調が完全に戻ったルナは星の紡ぎ手について調べ始めた。村を訪れる人に紡ぎ手について聞いてみたり、街に出た時にも聞き込みや本を読んで少しでも情報を手に入れようと努力を重ねた。

 その結果、星の紡ぎ手たちを導く賢者が実在していると知った。名はカイリと言う。彼は王国の王都に住んでいるらしい。ただ気難しい性格らしくほとんど人と交流がないそうだ。会うとしても星の紡ぎ手の力に目覚めた者や王都の偉い人達ぐらいだという。


「大分変わった人みたいだね……」


 けれどルナが自分について知りたいのならその賢者と呼ばれているカイリという人間に会うしかない。このことについても叔父さんと叔母さんに話す必要があった。


「どう反応するのかはまったく分からないけれど……でも説明はしないとね」


部屋でベッドに寝ころびながら今後の方針を決めたルナは起き上がって部屋を出る。


「あ、ルナ」


「ネリス?」


 部屋を出たところでルナはネリスと鉢合わせた。彼女はどこか悲しそうな表情をしていたがすぐに取り繕って笑顔を作る。腕を隠そうとするそぶりを見せたのでルナはネリスが隠そうとした腕を素早く捕まえた。


「きゃっ……」


「どうして腕を隠そうとするの? って……。これは」


 ネリスの腕を見たルナの表情が険しいものになっていく。彼女の腕には酷い痣が出来ていた。


「酷い……教えて、誰がこんなことをしたの?……」


 ルナの問いかけにネリスは最初口を噤んだが、やがて話し始めた。ネリスのよるとあの影の眷属を助けた時に使った力を見ていた人達がネリスのことを恐れるようになってしまったらしい。その中でもネリスのことを恐れるあまり化け物扱いするようになった人達から暴行を受けたとのことだ。


「なんて酷いことを……! 助けたのはネリスなのに……!」


 ルナの表情が怒りに染まる。今にもネリスに危害を加えた人間に制裁を与えにいきそうな雰囲気があった。


「ルナ、落ち着いてください。私は大丈夫ですから……!」


「大丈夫な訳ないでしょう……! こんな酷い傷を付けられて!」


「私のあの力を見て他人が怖がるのは無理もないことです。私だってあの力のことが分からず怖いんですから。使う力の雰囲気が影の眷属に似ているなら皆が恐れるのは当然です」


「……っ」


 ネリスの言葉にルナは黙ってしまう。得体の知れない力を怖がることに関しては否定できないからだ。しかしこんなことが起きた以上、ネリスがこの村で生活することは難しいかもしれない。


「……ねえ、ネリス。私と一緒に村を出ない?」


「えっ?」


「私ね、星の紡ぎ手の力について知るために王都の賢者様の元に向かおうと思ってるんだ。その旅にあなたも一緒に来ない?」


「私は……」


「その旅であなたについても調べるの。ずっと知りたがってたでしょ、いい機会だよ。こんなことになったのなら決意するなら今だ」


 ルナに迷いはなかった、ずっとこの村を出てみたいとも思っていたから今回の星の紡ぎ手の力に覚醒したことはいいきっかけだとネリスは考えていた。ネリスはそんな彼女を見て微笑んだ。


「ルナは本当に迷いがありませんね、私を助けてくれた時もそうでした。……あなたの旅に私も一緒に連れていってください」


「もちろんだよ。よろしくね、ネリス」

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