第11話
眩い光が閃き、ルナの叔父と叔母を取り囲んでいた影の眷属を消滅させる。
「これ…は…」
ルナ自身も今起きたことに茫然とし、ネリスやリリアも目を見開いて今の現象を見ていた。残った影の眷属達はルナの攻撃に怯んだのかその場から動かない。
(なにが起きたのかよく分からない。けれどあの力があれば影の眷属を倒せる)
たださっきの攻撃はルナも無我夢中で脳裏の思い浮かんだ言葉を詠んだだけだ。また同じことが起きるかは分からない、けれどやってみる価値はある。
「よし!」
ルナは影の眷属達のほうを向いて再び同じ言葉を詠んだ。
「天の煌めきよ、我らに災いもたらすものを祓いたまえ」
言葉を詠みあげると同時に再び眩い光が迸り、影の眷属を消滅させていく。叔父と叔母を取り囲んでいた影の眷属はいなくなっていた。
「叔父さん、叔母さん!」
ルナは二人に駆け寄る。幸いにも二人には怪我はないようだ。
「ルナ、よく無事でいてくれた。リリアのこともちゃんと守ってくれてありがとう」
「うん、私達は大丈夫だよ。それよりこの村でなにが起きたの?」
「私達も影の眷属から必死に逃げ回っているような状態だったから細かいことは分からない。いきなり奴らが襲って来たんだ。彼らを率いているリーダーがいるようではあったが」
「リーダー?」
「おやあ? これは本当に収穫がありましたねえ」
少し高めの男性の声が響き、1体の影の眷属が現れる。人に近い形をしていたが手に当たる部分は異様に長い爪が存在していた。
「あなたなの? 叔父さんが言っていた村を襲っていた影の眷属を率いていたのは」
「ええ、ええ、私ですとも、名はカミリと申します。ようやく目的の者が見つかり、私もほっといたしました」
「目的? あなたの目的ってなに?」
ルナは刺すような視線を向けながら問いかける。カミリと名乗った影の眷属はにたりを笑ってるルナの質問に答えた。
「それはあなたですよ、可愛いお嬢さん」
「!? 私?」
カミリの回答にルナは戸惑う、自分を彼らが狙う理由が見当たらないからだ。
「おや、気付いておられない? あなたのその力がなんなのか?」
「今、私が使った力のことを言っているの?」
「ええそうですとも。あなたは星の力を持つもの。あなた達の言葉で言えば、星の紡ぎ手と言えばよろしいでしょうか」
「私が星の紡ぎ手!?」
相手の言葉に今度こそルナは絶句する。幼い頃から憧れていた星の紡ぎ手に自分がなったと言われても実感が湧かなかった。
「ええ、その通り。あなたはこの危機的な状況な中で力を覚醒させたのです。そして私の仕事はあなたのような星の紡ぎ手を殺すこと!」
カミリはルナへといきなり駆け出した。鋭い爪がルナ目掛けて振り下ろされる。
「させません!」
鋭い声と共にルナと影の眷属の間に割って入ったのはネリスだ。彼女は影の眷属の振り下ろした爪を漆黒の剣ではじき返す。
「おや、あなたは何者です?」
カミリは怪訝な顔をして問いかけてくる、ネリスはそれには答えず無言で剣を構えた。
「ふむ、まあいいでしょう。星の力を持つものが一人増えてもそれほど脅威にはなりませんから」
カミリはどうやらネリスのことは気にせずルナを狙うようにしたようだ。再び爪を構えて攻撃の体勢に入る。ネリスは再びカミリに応戦しようと剣を構えるが、
「ネリス、下がって」
「ルナ?」
ルナがネリスを制し、そのまま前へと進み出る。
「あなたの目的は私なんだよね?」
「ええ、そうですとも。若く才能ある星の紡ぎ手。あなたを殺すことが私に課せられた使命なのです」
「なら私と戦うのは拒否出来ないわけだ、絶対に殺さないといけないわけだし」
ルナはカミリの言葉を聞いた後、不敵に微笑んだ。
「よかった、あなたは倒せそうだから」
「なにい……」
ルナの挑発するような言葉にカミリは明らかに苛立っていた。今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。
「覚醒して力を得て調子に乗りましたか? 力を使い始めた使い手如きに私が負けるとでも」
「それはやってみなくちゃ分からない」
自身を持ってルナは言い放つ。不思議とルナは目の前の敵に負ける気はしなかった。
「よろしい。生意気なあなたには絶望を与えて差し上げましょう!」
ルナの言葉に怒ったカムリはルナ目掛けて走り出す。
「この爪であなたを切り裂いて無残な死体にしてあげますよ!
ルナに振り下ろされた爪が彼女を切り裂こうとし――光輝く壁に弾かれた。
「星の加護よ、どうか我らを守りたまえ」
ルナが相手が攻撃してくるのに合わせて言葉を詠ったのだ。彼女とカミリの間には障壁が出現し、ルナのことを守っている。
「なに!?」
攻撃を弾かれたカミリは一旦ルナから距離を取り、体勢を立て直した。ルナのほうはっじっとカミリのほうを見つめている。
(ああ、戦い方が分かる)
さっき唱えた言葉も脳裏に浮かんできたものだ。力に覚醒した時からとでも言えばいいのだろうか。頭にその時にどうすればいいのかが自然と判断でき、最適な対応にふさわしい詠唱がなにかが今のルナには分かる。
(なんていうか詳しい誰かが戦い方について指導してくれてるみたいだ)
とんでもない力だと思いつつルナは目の前の脅威を排除することに集中する。
(あの眷属を倒すためにはなにか武器のようなものが欲しい。そのために必要な詠唱は……)
ルナが念じると頭の中に一つの詠唱が思い浮かんだ。ルナはその言葉を唱える。
「星達よ、厄災を退ける刃を我に与え給え」
唱え終わるとともにルナの手には光輝く剣が生み出される。ネリスの持つ黒剣とは真逆の色をしたものだ。
「行くよ」
ルナはそのままカミリに向かって駆け出す、力に覚醒したルナは肉体も強化されていた。接近すると同時にルナは剣を横薙ぎに振るった。
「そんな単純な攻撃が当たるとでも思いましたか!」
カミリは横薙ぎに振るわれたルナの剣を後ろに飛んでかわし、再び爪でルナを切り裂こうとする。しかしその攻撃はまた光の障壁に阻まれてしまった。
「ちっ! 一度発動したらずっと効果があるとは厄介な!」
「隙あり」
ルナは相手が攻撃を弾かれて、怯んだところに再び剣を振るうがカミリも簡単には攻撃に当たってはくれない。お互いの攻撃が空振る結果となった。
(なかなか攻撃が当たってくれないな、なら……)
「星々よ、我らの敵を縛り給え」
ルナが詠唱し終えると同時にカミリの足元から光の縄が伸び、縛り付けた。
「なに!? これは……まずいですねえ」
「捉えたよ、これで攻撃が外れる心配はない」
ルナはカミリのほうへ駆け出す。そのまま袈裟斬りに光の剣を振り下ろした。
「舐めないでいただきたい!」
「!?」
カミリが吠える。左腕を縛っていた光の縄を破壊し、ルナの斬撃をその左腕で受け止めた。
「……くそ……!」
「ははは、まだまだですよ! この鎖には少々驚かされましたがね!」
カミリから黒い靄のようなものが溢れ、ルナの生み出した光の縄が破壊される。そのまま残った右腕を振るうがそれはルナの障壁に弾かれる。
「ちっ、やはりこの攻撃ではあなたの防御は敗れませんねえ」
「腕に一本を斬ったし、あなたの攻撃は私の障壁を貫けない。この戦いは私の勝ちだよ」
「思いあがらないでくださいと何度も言っているでしょう。本当に生意気な娘ですねえ!」
苛立つようにカミリが言い放つと同時に彼の体が黒い靄に包まれる。
「この姿を見せることになるとは思いませんでしたが……致し方ありません。すべては任務を完遂するため!」
カミリの体を包んでいた黒い靄が晴れるとカミリの肉体が変化していた。背中からは大きな翼が生え、斬られた左腕も再生している。
「まだそんなのを隠していたの? 本当にしぶとい」
「くはは、奥の手はいつだってとっておくものですよ! さてあなたとの楽しい戦いも終わらせるとしましょうか!」
カミリは右手を体の前にかざす。その右腕に黒い靄が凄い速度で集まっていく。
「あれは……ちょっと受けるのはまずいかもしれない」
ルナはなにが起きているのか直感的に感じていた。カミリの腕に集まっている黒い靄は高密度のエネルギーみたいなものだ。あのエネルギーが放たれたのを受け止めるとルナが張っている障壁を貫通してしまう可能性がある。
(障壁で受け止めるのが不可能なら……あれを超える攻撃をぶつければいい)
ルナは右手の光の剣を消して、目を瞑る。あの攻撃を打ち破れるような詞を唱えなければこの勝負には勝てない。
(お願い、私に力を……!)
目を瞑り、カミリの攻撃を打ち破るイメージを思い浮かべる。やがて浮かんできたのは一つの詠唱だった。
ルナはその詞を厳かに唱える。
「……我、星の加護を受けし者なり。偉大なる星々よ、どうかあなた方が加護を授けた子である我に滅びの災厄を払う力を与え給え」
詠唱が終わるとともにルナの周囲が眩い光に包まれる。ルナのプラチナブロンドの髪が淡く光り始め、彼女の目の前に膨大な力が集まり始めた。
「ほう、真向勝負をするつもりですか。いいでしょう、受けて立ちますよ!」
カミリはエネルギーを集め終わったのか攻撃を放つ体勢に入る。ルナのほうも準備を終えて、攻撃を放つ体勢に入った。
「消えなさい! 新たな星の紡ぎ手! あなたは生まれたと同時に死ぬのです!」
カミリが集めた膨大なエネルギーを放つ。地面を抉りながら禍々しい光がルナへと迫った。
「消えるのはお前だ! はああああああああああああああああああああああ!」
ルナもまた集めた力を放つ。眩い閃光が奔り、カミリの放った攻撃と衝突した。二人の放った攻撃はしばらく拮抗していたがルナの放った攻撃が最終的にカミリの攻撃を打ち破った。
「ば、馬鹿な、ありえません! この私がまだ覚醒したばかりの人間に……」
カミリの最後の言葉は光に飲まれてかき消された。ルナの攻撃を受けたカミリは跡形もなく消滅した。
「やった……! 倒せた……!」
歓喜の声を漏らすルナ。同時に彼女を守っていた障壁も消えていく。
「お母さん……私……ちゃんと……大事な人達を守れたよ……」
その言葉と共にルナは地面に倒れ、彼女の意識は途切れた。
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