第10話
「ネ、ネリス?」
あまりの出来事にルナは呆然とする。しかしそんなルナの声もネリスには届いていないようだ。
ネリスは影の眷属の喉に突き刺さった剣をゆっくりと引き抜く。剣を引き抜かれた眷属は溶けるように消えていった。
「……倒さなきゃ」
ぽつりと呟いたネリスは凄まじい早さで動くと馬車を取り囲んでいる影の眷属の一体を袈裟切りに斬り捨てた。
「す、凄い……」
ルナは感嘆の声を漏らす。2体葬られたことで影の眷属達は標的をネリスに定めたのか一斉に襲いかかった。
「邪魔」
ネリスは影の眷属の攻撃をものともせず漆黒の剣を振るい次々に斬り捨てていく。ネリスの振るう剣は黒いオーラを纏っていた。
「あれって……影の眷属の纏うものと……!?」
似ているとルナは言いかけてやめた。今ネリスは自分達を護ってくれているのだ、あの力は気になるけれど彼女の行動を信じようとルナは決める。
ネリスは踊るように剣を振るい続け、影の眷属を1体になるまで始末した。残った個体はいままでの狼型の眷属よりも一回り大きかった。 その眷属が大きな口を開けて襲いかかってくるのをネリスは華麗なステップで避け、すれ違い様に斬りつける。斬られた相手は痛みからか怯んでしまった。
ネリスはその期を逃さず眷属目がけて剣を振り下ろし傷を与えていく。怒った影の眷属は反撃に出るがその攻撃がネリスに当たることはなかった。
「これで終わりです」
ネリスは影の眷属の足を斬り飛ばした。足を斬り飛ばされたことでその影の眷属は動けなくなる。相手の動きを封じた後、ネリスは相手の喉目がけて剣を突き刺した。
首に剣を刺された影の眷属はそのまま灰になって消えていく。後に残ったのはネリスのみだった。
「ねえ、ネリス。あなたが使っていた今の力は……」
ルナの呼びかけにネリスが振り向く。さっきまでの冷たい空気はどこへいったのか、彼女は困惑し、そして怯えていた。
「私にもあの力がなんなのかよく分かりません……。なぜか影の眷属を倒さなきゃと主lt久田らあの剣が手の中にありましたから……剣を握ったら戦い方も頭に浮かんできて……どうして私、こんな……」
「そっか」
ルナはネリスが怯えないようになるべく彼女に優しく語りかける。あの剣やネリスの力には怪しいなと思う部分がないわけじゃないけれど彼女が自分達を守ったのは事実だ、その行動を信じて今は彼女のことを疑うことはしないとルナは決めた。
「今はその力について考えても仕方ないみたいだから先へ急ごう。叔父さんと叔母さんのことも気になるから」
「……はい」
*
ネリスが謎めいた力で影の眷属を影の眷属を撃破した後、ルナ達は叔父と叔母を探して村へと向かった。
「どうか無事でいて……叔父さん……!」
ルナは祈るような気持ちで家へと向かった。ネリスとリリアも一緒についてきている。リリアはまだ影の眷属に襲われた時の恐怖が抜けないのかルナの服の裾を掴んで震えていた。ネリスも先ほど自分が使った力がどういうものか分からず、表情が暗い。
村はあちこちの家が襲われて酷い状況だった。何人か息絶えた人の遺体が地面に横たわっていることもあってリリアがひっ……っと息を呑む音が聞こえた。
村の中にはまだ影の眷属が存在していて3人は隠れながら進んでいたがそれでも途中で影の眷属達に見つかってしまう。
ルナ達を見つけた影の眷属達は彼女達に襲い掛かるが、黒い剣閃が彼らを切り裂いた。
「ネリス……」
先ほどと同じように黒い剣を手にしたネリスがルナ達を守るように立っていた。
「ルナ、そのまま進んでください。リリアさんとあなたは私が守りますから早くお二人を探しましょう、できれば途中で村の人達も助けましょう。私が影の眷属を倒します」
「でも……」
「大丈夫です」
ネリスは力強く言い切った。その目には強い意思が感じられる。
「この力がどういうものかは私も分かりません。でもこの力でルナやリリアさんを守れるのなら私はこの力を喜んで使います。それに不思議と負ける気はしていませんから」
「……分かった。じゃあお願い、私達の家までの道を切り開いて」
「分かりました」
ネリスを戦闘にしてルナ達は再び進みだす。途中で再び影の眷属が襲ってくるがネリスがそれを斬り伏せていく。何度か村の人が影の眷属に襲われている場面に遭遇したため、ネリスが襲ってきている影の眷属を撃退してその人達を救出した。
「はあ、はあ……!」
そうしてなんとかルナ達は自分達の家まで辿り着く。全速力で駆けてきたため息が荒い。
「ルナ、あそこ?」
「!?」
ネリスが指さした先にいたのは何体かの影の眷属と――その影の眷属に襲われそうになっている叔父と叔母だった。
「叔父さん! 叔母さん!」
「ルナ!」
ネリスの静止も聞かずルナは駆け出す。大声を出したせいか影の眷属がルナ達に気付いた、怪物はじっとルナのほうを見つめている。
「ミツケタ、ホシノチカラヲモツモノ」
「……また、この声……!」
影の眷属と最初に遭遇した時にも聞こえた声が再び頭に響く。酷い頭痛がルナを襲うがそれでも彼女は足を止めない。
(またあんな思いをするのはごめんよ! お母さんの時みたいなことはもう絶対に嫌!)
ルナの脳裏に過るのは動かなくなり、血に塗れた母の肉体。あんな光景をもう見たくはないし、悲しい思いをリリアにさせるわけには行かない。
「天の煌めきよ、我らに災いもたらすものを祓いたまえ」
不意に脳裏に浮かんだその言葉を紡いだ時、眩い光が影の眷属達を貫いた。
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